秘密の庭のウサギ

"恋愛小説,連載"  著作者:そら      オンライン小説SNSへ


[あらすじ]
転校したばっかりで、新しい環境になじめない有羽。そんなある日、たまたま入った公園で謎のウサギと少年に出会います。
秘密の庭のウサギ
次の日、日曜日だというのに朝からキャベツを持って参上した有羽。入ったとたんに「ム゛!」と鳴かれ、キャベツをあげるまもなく逃げられた。

「しーらない!お邪魔します!」

キャベツを犬小屋前に置き、持ってきた楽譜を広げ寝転がる。有羽は歌うのが好きで、引越しによってピアノ教室もやめてしまったし合唱部のない今の高校では物足りなさを感じていた。ここは静かだし、歌ったら気持ちいいだろうなぁとクラシックの楽譜を1冊持ってきたのだった。


 シューベルトの子守唄を口ずさんでいると、ムーが犬小屋から首だけ出してこっちをみているのに気付いた。

「キミ、歌好き?」

ふふっと笑って、また歌いだす。ウサギの前だと緊張しないんだなあ。

ムーはいつの間にか、有羽の隣にちょこんと座っていた。なでてみるが抵抗しない。よっぽど歌に関心を持ったのか、とにかく有羽はうれしくてしょうがなかった。初めてこっちでトモダチが出来た。

昼過ぎ、翼がこれまたキャベツを持ってやってくると、有羽は大の字になって口をぽかっとあけて寝ていた。スカートじゃないだけまだましだ。

…またか、変なやつ。

翼は正直迷惑していた。自分だけの大事な場所だと思っていたから。

でも、有羽の横にムーがうずくまっているのを見て、翼は驚いた。傍には半分もなくなったキャベツ。もう慣れたのか、なんてやつだ…。あまりに間抜けな一人と一匹の寝顔を見て、翼はちょっと笑った。



ムーは本当に気まぐれだった。 
有羽にくっついてくるときは大抵お腹が空いたとき。もって来たごはんが気に入らないとム゛ーと鳴き、機嫌が悪いときに触ると後ろ足で地面をダン!と叩く。どうしたらこのウサギ様のご機嫌をとれるか、有羽はここのところ毎日そればっかり考えていた。


「佐倉さん」
昼休み、チョコパンを食べながら無意識にウサギの絵を描いていると、クラスの子が二人寄ってきた。

「昨日音楽室で放課後歌ってたの、佐倉さん?」
「あ、うん…」
昨日は帰る前に、先生がいなかったので音楽室に忍び込み歌っていた。

「すっごいうまいね!びっくりしちゃった」

逆に有羽がびっくりした。何か言わなきゃとパクパクさせていると、他の子が言う。
「音大とか行きたいの?私フルートやってるんだ」

そうか、二年生はもう進路考えなきゃなんだ。でも…
「あの、私‥何にも考えてないや。ただ歌うの好きなだけなんだ…。ここ合唱部ないから…。」

なんとか答えた。あー私つまんない奴…。

「そっかー…ねえねえ、どこから転校して来たんだっけ??あ、あたし綾、こっちが里緒だよ!」

二人はいつの間にか有羽をはさんで弁当を食べていた。前って制服どんな?彼氏いたの?それ地毛?…質問攻めだ。こんなこと今までなかったから有羽はかなり戸惑ったが、一生懸命答えた。自分に関心を持ってもらえるなんて。

「よかったー!有羽ちゃんおとなしいのかと思ったら、おもしろいね!」

「いつもひとりでいるからさあ、もっと早く話しかければよかったよ。これからよろしくね!」
五時限のチャイムがなって、二人はまたねーと席に戻った。

有羽はうれしくて、視界がぼやけて黒板が見えなかった。


「ムー!!!!今日はごちそうだよ!!」

自分より大きい声でムーと言われ、ムーはびっくりして飛び上がった。
有羽はホームセンターで買ってきたウサギ用野菜スナックを紙皿に出した。

「トモダチが出来たんだ。私がキミに必死でしてるように、話しかけてきてくれたんだよ!これから昼一緒にお弁当食べようって、誘ってくれたんだ」

有羽はムーに向かって喜びの程をしゃべりまくった。ムーはじっと有羽を見ている。聞いているように見えた。

そこに翼が入ってきた。有羽を見て、下を向いて頭をかく。するとスナックが目に入る 

「なに、それ」
「ムーに買ってきたんだ、ちょっとうれしいことがあったから、なんとなく。」
ムーは警戒しつつ一口食べ、途端スイッチが入ったようにすごい勢いで完食した。

「おいしいみたいだねぇ」有羽は満足そうに、残った半分の袋の口を閉じた。ムーは後ろ足で立ち上がっておかわりをねだる。こうなると完全に有羽の勝ちだ。
「いいなあ、ご飯のことだけ考えてればいいなんて、幸せだねえ、キミは」

「・・・あんたも暇だね。T女子高近くないのに。」
初めて翼から話しかけてきた。今日は収穫が多い。

「ごめん、迷惑かな…」
「いや、別に」
「……。」

話が続かない。男の人と話すのはさらに難しい。


翼は座ると、雑誌を広げた。毎日何かしら読んでいる。 
「いつも何の雑誌読んでるの?」  
「髪型…」
そうか、美容師さんだった「もうお店とかで切ってるの?」
「いや‥免許持ってないから。アシスタントでバイト行ってるけど、まだマネキンと自分しか切ってない」

自分で切って、自分でカラーしてこんなにうまいんだ。翼の髪は明るめの茶色で、いつもきれいにスタイリングしてある。
「自分のでこんなに上手なんだから、就職したら人のもすぐ切れるね、きっと」
有羽は感心した。自分とはまったく別の世界だ。
「でも…俺話すの苦手だから…」
翼は申し訳なそうに答える。確かにすごく口数が少ない。慣れてないからかなと思っていたが、実際誰にでもそうらしい。

「ムーにはしゃべれるけど…それだけじゃ変態だよな」
お腹いっぱいでうとうとしているムーをなでる。

ウサギに一生懸命話し掛ける翼を想像し、有羽はちょっと吹き出しそうになった。私と同じことしてるんじゃん。こんなルックスなのに、なんだか少し抜けているようだ。仲良くなれそうな気がした。

「あ、私にも髪型のアドバイスしてくれないかな?わからなくて」
翼はびっくりしたようだったが、じっと有羽を見た。
「色‥暗すぎかも。肌白いから、ブラウンじゃなくてベージュ系にしたら?んで、もうちょっとのばすとか…T女子はパーマだめかな・・・」
急に目つきが美容師になった。心なしか口調もはっきりしている。
「翼くんっておもしろいね」
初めて名前で呼ばれ、翼は美容師モードを解き、固まった。おもしろいなんて初めて言われた。
「…佐倉さんは、変だと思う。」 
「変!?」
「うん、変だ」

ふっと笑った翼は、びっくりするほどかっこよかった。

ムーへの餌当番を決め、別れた。有羽はここにくるのが更に楽しみになった。


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