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[あらすじ]
恋人に無理やり連れられてきたのは占いの館。未来を予言する謎めいた言葉を占い師に言われてから人生が変わってしまった男の物語。 |
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活字中毒の男 1
――3年前のことだ。
俺は百合子に無理やりに近い状態で『占いの館』に連れられて来た。
占いなんて信じない。いや、そうでもないか。いい事はどこかで信じたりする。よくいるご都合主義だ。
でも、何でもかんでも信じていたら馬鹿馬鹿しいじゃないか。悪い事を言われたからって怯えて暮らすのか?
違うだろう?
キャミソールワンピース姿の露な腕に引きづられながら、どうせ恋愛運や結婚運でも聞くんだろう、と頭の中で囁いた。
どうして女はそんな事やたらと聞きたがるのかね……。結婚する気なのに。もう30なんだから、こっちだってちゃんと考えているさ。
彼女の占いへの意気込みが手の握り加減から伺えて内心微妙な気持ちでいた。
アミューズメントが集まったビルの入り口に一歩突っ込むと、ゲームセンターの音でうるさく一瞬耳を塞ごうかと思うほどだった。
ただでさえ暑いのに余計暑苦しく感じるこの気持ち、分かってくれるだろう?
「ここよ。ここ。すごく当たるんだって!」
百合子ははしゃぎながらエレベーターを地下1階に向かわせた。
降りるとゲーセンのうるささとは正反対に静かで冷んやりとして神秘的なと言うのか、胡散臭いと言うのか、そんな雰囲気の部屋が現れた。
でも、どちらかを選ぶとすれば『胡散臭い』だ。正直こんなところ早く出ててしまいたかった。まだ彼女のウインドウショッピングに付き合っているほうがマシだとさえ思えてきた。
百合子はささっと受付を済ますと、ロビーで順番を待った。ロビーと言っても安そうなベンチが無造作に置かれているだけのものだったけどね。
想像していたよりもたくさんの人が並んでいて、俺達は長い列の最後だった。奥の部屋は紫色のカーテンで仕切られていて5人の占い師がいるらしい。
その部屋から出てくるのは今の所全て女だった。うつむいて暗い影を漂わせて出てくる者もいれば、晴れやかでパワー全開の笑顔を浮かべて出てくる者もいる。
待つ事30分、やっと番が来た。欠伸をしながら紫色のカーテンをめくると大きな水晶の向こうに目だけ出して黒いシルクの布で全身を覆った占い師と対面した。発色のいい紫色のアイメイクがしっかり施されており、ゴールドのラメまで振りまかれている。一度観たらしばらくうなされそうな目だった。
「どうぞ」
占い師に言われるまま俺達は椅子に座った。
「2人の今後の運勢ですね」
念を押すように低くしゃがれた声で聞かれた。
やっぱり結婚の事を気にしているのか……。
よくTVなどで占い師がやるように水晶にしばらく手をかざしてから、もったいぶる様に話し始めた。
「では……結果から言いましょう。あなた達の相性は……とてもいい。お互いにこの相手を逃してはならない。彼女はそろそろ結婚を望んでいる。しかし、焦る事は無い。彼は結婚を心に決めている」
な、なんだ?
「百合子さん。あなたは、とても幸せになるでしょう 利夫さん……これから言う事を忘れないで下さい。3年後あなたに転機が来ます。その時少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。いいですね」
予言めいた変な言葉を聞いて一瞬びくりとしたが、サッパリ何の事かその時は全く分からなかった。
百合子は嬉しそうだった。
「ねえ、ホントなの?当たってた?」
何度も同じ事を聞いた。
当たっていたことがシャクだったので本心を言いたくないと思った。
「さぁ、どうだかね〜」
はぐらかすつもりの言葉だったが、勘のいい百合子は隣でニコニコしていたからバレていた様だった。
占い師に言われた事を暫くの間は覚えていたが煩雑な日々に忙殺されていつしか頭の片隅へと消えていった。
俺達は、あの占い師のところに行ってから半年後結婚した。その一年後男の子が産まれ、そのまた翌年に女の子が産まれた。家族は4人になり、ますます仕事に力を入れていた。
そう、3年が過ぎていた。
来る日も来る日も残業ばかりだった。
そりゃそうだろう?
百合子は結婚を機に退職して専業主婦になった。育児に追われているが性に合っているみたいだけど……。
子どもは2人。
俺が頑張るしかない。夫として父としての義務だと思う。
「あなた、最近顔色悪いけど大丈夫?」
心配そうな顔が目の前に現れた。
「なに、大丈夫だよ。 ちょっと寝不足なだけさ」
玄関で靴を履きながら鞄を受け取ろうとした。そう、受け取ろうとしていた。
目を覚ました場所は病院だった。
「あなた……」
心底心配そうな顔の妻が側にいた。
「俺、どうしたんだ?」
「倒れたのよ」
今朝出掛け際に頭を抱えながらうめき声をあげて倒れこんだのよ、と聞かされた。
医師からは過労と告げられた。
ここんとこ詰めてたからなぁ……。
少し反省した。こういう事が起こらないとたいていの人間なんて反省などしない。
念のための頭部のCTとMRIを行い、結果は異常なしとのことで退院できた。しかし、1週間の診断書が出された。明日から1週間、骨休みをしろ、と言うのである。
退院して自宅に戻った時の夜、眠りにつこうとベッドに入ったがなかなか眠れなかった。家族が眠りについた中、一人でトイレやリビング、冷蔵庫を開けたり締めたりしてウロウロする。
――こんな夜は深夜TVでも見よう。
リモコンで電源を入れると、最近人気の出てきたお笑い芸人がくだらない番組の司会をしていた。こんな事が療養になるのか……と疑問に思うのだが寝付けないものは寝付けないのである。ぼーと画面を見ているとお笑い芸人の顔が歪んだ。
あれ?
歪んだかと思うと画面が渦を巻き始め、何かが飛んで来た。
一つ一つそれは相当な速さで飛んでくるのだが、だんだん目も慣れて、よく見ると『文字』だった。
慌ててTVを消した。
すると今度はまるでDNAの二重螺旋構造が解けるように、頭の上に次々にパラパラと文字が降って来るのである。
これは幻覚なのか? 俺はおかしくなってしまったのか? どうすればいいのだ?
咄嗟にボールペンとその辺にあった紙を手に取って頭から降ってくる文字を書き拾った。広告はすぐ無くなってしまったのでプリンターの用紙を袋ごと持って来てそれを使った。ペンと紙を揃えると俺の右手は自分の物ではないように文字を書き殴り始めた。
その作業は朝方まで続き、そのままリビングのソファーで眠ってしまった。
妻が起きてリビングに来るとソファーで横になっている俺にびっくりしたようだった。力いっぱい肩を揺すられたので目を覚ましてしまった。ついさっき深い眠りに入った為、瞼は錘が付いているように重くてなかなか開かない。
「あなた、あなた、あなた!」
「うぅ……ん……」
今にも目から溜まった涙がこぼれ落ちそうな妻の顔があった。俺がはっきり目を開けるとほっと胸を撫で下ろした。
「また、あなたがどうにかなってしまったのかと思って……」
「大丈夫だよ」
「良かったわ」
目を擦りながら妻はテーブルの紙の山を指差して聞いた。
「これ、なに?」
俺は昨夜の出来事を一部始終話した。
「それで、あなた書くだけ書いて眠ってしまったのね」
納得した表情をした妻は自分なりに噛み砕いているように見えた。
「これ、読んでみましょうよ」
「そのつもりだ。 でも、俺は寝る。もう、眠たくて仕方ないんだ」
「じゃ、私が先に読んでいい?」
「あぁ」
あくびをしながら寝室に向かった。頭にはぐっすり眠ることしか無かった。
著作者:桃色満月
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