●第8話●
「じゃあ、俺は帰るから」
先輩はそう言ってにかっと笑った。
さき程のキレた瑞樹を感じさせないような笑顔で瑞樹は生徒会室から出て行ってしまった。
空気が重くなる。
「萄子先輩……」
奈栄は、いつものように冷静でいる表情の萄子に話しかけた。
「……ごめんね。奈栄ちゃん。瑞樹くんにあぁ言われてしまったら、話すわけにもいかないわね」
「あ!いいえ!!!!私のせいで萄子先輩が怒られてしまう形になってしまって…すみません!!!!」
奈栄は勢いよく頭を下げる。
「いいのよ。奈栄ちゃんが謝ることじゃないわ。人間は好奇心の塊だから、そういう話は聞きたくなってしまうものなのよね」
にっこりと笑って、再び萄子は体育祭のプログラムを組み始める。
本当に萄子先輩ってすごい人だなぁ………。
「……それにしてもさっきは驚いたわ。瑞樹くんあんな風に怒ったことなかったから」
奈栄が目を丸くしていると、はっと口をつぐむ。
「あ。こういう話しもダメなのかしら?ごめんなさいね。これ以上はやめましょう」
「はい」
萄子先輩には迷惑かけたくないし、これからは別の形で調べよう。
とりあえず体育のプログラムの組み合わせが終わり、二人は玄関のところで別れた。
「それでは、ここで」
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
別の形で調べるったってどうすればいいんだろう?
奈栄は途方にくれていた。
ブロロロロロ
……うるさいわね。どこの車よ?
奈栄は校門前に止まっている車を見て絶句した。
白くて長いベンツの車で、ドアに向かってサングラスをかけ顔が傷だらけの人相の悪い男たちが二列に並んでいる。
何!!!!?あれは何!!!!!?
この学校ってどうなってるのよ!!!!!?ヤクザの人に目つけられてるの?????
そして、それに向かって歩いて行く後ろ姿を見てまた驚いた。
………もしかして萄子先輩!!!!!?
なんであんなに平然と歩いて……。
奈栄は理解した。
萄子先輩ってあっちの人だったんだ。
私、先輩になんてことをしたの………。
背中が急に寒くなった。
萄子が車の中に入ると、ヤクザの男の人たちは、別の車に乗りこんで校門を去った。
奈栄は車がすべて見えなくなるまで隠れていた。
「………みみ、見なかったことにしよう!!!うん!!!」
萄子先輩はそのまま玄関で別れて歩いて帰った。
そういうことにしておこう!!!
家に帰って、まず携帯を開く。
すると由美からメールが届いていた。
『私のお姉ちゃんが、あの向井先輩の同じ中学だったんだって!!!奈栄ちゃん、向井先輩のこと知りたがってたから今度うちに来て話し聞いてみない?』
「え!!!!?」
謝って携帯を手から落としそうになった。
「由美さま、サイコーーー!!!!」
奈栄は大声で叫ぶ。
その後、あんなに声出して近所迷惑だと母から怒られた。
でも、奈栄はうわの空。
由美の家に遊びに行く日程を早々と取り決めた。
遊びに行く日は明日。
ちょうど学校は休みで、嬉しいこと続きである。
…………っていうか由美のお姉さん、瑞樹先輩と同じ中学校に通ってたんだ。
羨ましいなぁ。
勉強そっちのけで明日、聞きたいことをメモ張に書き留めておく。
その時の奈栄はお気楽な気持ちだった。
何かを受け止められる覚悟なんて全く持ち合わせてなどいなかった―――――――
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