眠り姫へのキスへ
BL小説  著作者:槌乍      投稿小説空間ホームへ

[あらすじ]
たまに現れてくれる、俺の親友と言ってもおかしくない料理好きのコーヤ。そして、その料理が好きな俺。でも、俺はそんな昂哉が好きだ。でもその日は昂哉の……
眠り姫へのキスへ


  水の音って綺麗だ。
  なんか、落ち着く。
 
  朝起きる時は、絶対その水の音と、まな板のトントンという、定期的に流れる音のどちらかだった。そんな朝は、出来るだけ目を瞑って寝てるフリをして、起こしてくれるのを待っている。
  でも、心臓はバクバク言っていて、いつになったらいつものように起こしてくれるのかな? って、いつも考えてしまう自分がいる。
  たまに聞けない朝は、機嫌が悪くムクッと起きて、暫く頭を抱えるようにボーっとする。
  定期的にきてくれるわけでは無いそいつは、料理が大好きだった。しかも、男のくせに丁寧で、手をこめた料理をする。
  男のくせに。と言ってしまったら、言葉的に世間からの反抗が来るだろうけど、別に来たって構わない。
  こうやってきてくれるようになるのは、そいつも機嫌が悪くないという時だった。機嫌が悪いときは、どうしてか俺の隣で寝てるときもある。
  そんなそいつに合鍵を渡したのはいつだっただろうか。
 
 
  キュッと可愛い音を鳴らして水が止まり、トントン鳴っていたまな板の音も、ぴたっと止まっては、何か塊りを転がすように、ゴロゴロッという音や、何かを注ぐ様な音がして。
  いつものテーブルにそれを置くような音が暫く続く。
  そして、そいつは静かに俺の部屋へと入ってくる。
  料理には丁寧だというのに、人に対してはかなり大雑把で、手荒いところが玉に瑕(きず)。
「いつまで寝ているばか者!」
  なんていいながらも、ゴツンと俺の頭を何かのもので叩いてくる。
「いっ!!」
  でも、こんな一日も悪くない。それに、こいつにされているのならば、別に悪意までは通ってこない。それなりに手加減というものを知っている男だから。
  本当は、ここでエプロンにおたま。そのおたまで起こしてくれる。というシチュエーションも色々考えてはいたが、そんな事を簡単にしてくれるわけもなく。
  というか、キッチン様式の何かを乱暴に使うことは、こいつの怒りを買う事になってしまう。
  起きていた頭も余計に覚め、勢いのまま上体だけを起こす。
「痛いってコーヤ!」
  暫くヒリヒリするその額を、自分の冷たい手で冷やすように手の甲を当てたまま、軽く上目遣いでコーヤを見つめる。
  すると、ふんっと言わんばかりに威張るような体勢で、じっと俺のほうを睨みつけてはこういってくる。
「はよおきんからだ! 飯が冷めちゃうだろ!?」
  手に持っていたのは、近くにあった俺の目覚まし時計。だんだん、もつものが凶器となりつつありそうなものなのは気の所為なのだろうか。
  最初の頃は、リビングにある、ソファのクッションという柔らかいものから、だんだんとティッシュ箱だったり、新聞紙を丸めたものだったり。最近は、リモコンとか俺の携帯とか。
  日に日に違うのはすばらしいとは思うものの、だんだん硬くなってきている事に驚いてしまうし、何せだんだん痛くなっていっている。
「食い物が冷める」
  ハッと目を見開き、くんくんと犬のように目を瞑ってその匂いの元をたどる。
「今日の朝食は俺の好物のシチューだね!」
  そういうなり、俺は後もう少しで身長180センチのコーヤの隣に足を下ろし、すぐに立ち上がってリビングのほうに行く。その後ろからコーヤもついてきては、乱暴に箸を持とうとした俺の手を、バシッと叩く。
  後ろからそのテーブルに片手をつけて、俺を包み込むような体勢で。
  俺よりも10センチ強高いコーヤのもう少しで身長180センチは、簡単に俺を包み込む事なんて出来てしまう。
「食べる前には顔を洗って手を洗う! 何度言ったらわかるんだ」
  掴んだその箸を乱暴に取り上げられ、グイッと俺から身体を離すと思えば、俺の腕をつかんで思いっきり洗面所のほうに背中を押しだす。
  ブーッと拗ねながらも、足を進めて洗面所のほうでやる事を済ませる。
  こんな一日が大好きだった。
 
 
 
 
 
 
  俺と昂哉(こうや)の仲は、高校二年生。俺が昂哉の学校に転校して行ったときから始まった。それからずっと、20になった俺と昂哉は繋がったままだった。
  他の友達は、少しメールを交わすくらいで、会ったりなんかは全然なかったが、初めに俺が昂哉の料理の才能に気が付いた事から、俺と昂哉は始まったのだ。
  卒業してからは、料理なんかするわけも無い俺は、就職をして一人暮らし。いいマンションを借りられたから、気分がいいまま仕事との生活をしていた。
  久々に会う事になった昂哉に思いっきり怒鳴られた事から、たまに昂哉が来るようになった。
  その怒鳴られる原因というのは。
  一人暮らしをするようになり、親の手料理ではなく、そこらへんのコンビニのオニギリひとつで一日が済んでしまったりと、だんだんと食に手をつけなかった。その所為で、不本意に痩せ細った身体を見て、怒鳴られた。
  それからだった。
  合鍵を渡せといわれ、時々作ってやるといわれた。

 それからというものの、結構な早朝から来て、朝食を作って自分の弁当と共に、俺の弁当まで作ってくれていたりもする。
  しかも、それはたまにであって、きてくれないその日は、そこらへんのコンビニ弁当だったりだ。
  昂哉の俺への更新の所為で、胃袋も高校時代に戻ってしまい、オニギリ一つじゃ足りないのなんの。
  あの頃は、それで充分だった事がありえないと思いながらも、昂哉に助けられる破目となってしまっていた。
  来た日は、大体俺が帰ってくる前に再び来ていて、晩御飯も作ってくれていたりする。それか、朝食を作ってくれない日でも、たまにだが晩御飯だけでもつくりにきてくれたりする。
  それに甘える俺は、それでもやっぱり料理を覚える事もなく。

「んー! おいっしぃ〜」
  昂哉は、自分の特技とはかかわりの薄く、時間の融通が利くカメラマンみたいなものだった。詳しくはわからないが、そこらへんを飛び回って背景だったり撮るほうではなく、仕事を雇われたり、直接頼まれたりして、その式だったり披露宴だったり、そんな場所でいいシーンを撮ったり、人を撮ったりする仕事だった。
  たまに被写体となれといわれるが、イヤだと断り続ける。
  そんなにいい身体をしているわけでも、昂哉の用にいい面をしているわけではない。
  昂哉は、身長もそれなりにあるし、顔つきも良い。男らしいとまでは言わなくとも、女がおって言うわけでもなく。なんというか、いい感じ。
  髪もそれなりに耳までと肩に触れるか触れないか程度の、パサパサした黒に近い茶髪。でも、これは地毛。
  目に掛からない程度の前髪は、気分によって、軽く流すように黒ピンで留めるか、ひとつにして後ろに回して赤いピンみたいな、とめるものでとめているときもある。
  兎に角、おろす日はそんなにない。
「おいしいか。味とか薄くないか?」
  昂哉が食べる前におれが食べる。その間は、その俺をジッと見つめながらも、嬉しそうな瞳で俺を見つめていた。
「うん。良い感じ! さすが昂哉! 俺の好み知ってるな」
  なんて万弁な笑顔を自然に出してしまう。そんな時に、スッと微笑む時の昂哉が好きだ。
  他の昂哉も好きだが、その時が一番輝いているようで好きだった。
  やっぱり、自分が得意だったりするものや、好きなものを素直に誉めてくれるというのは、嬉しい事だって俺も知っている。
「まぁな」
  まだあって4年過ぎたくらいだが、すぐに俺たちは共鳴しあえた。
  なんというか、解りあえれる時間が早かった。
  昂哉も漸く食べ始め、俺も再びそのスプーンを進めた。
 
 
 

 
「んじゃいってきまぁす!」
「はいいってらっしゃい」
  なんて、俺の部屋だというのに、俺のほうが先に家をでるというのも悲しいかもしれないが、こうやって送ってくれるのは嬉しい。
  なんだか、新婚さんみたい。
  でも、きっと向こうはそんな事なんか考えちゃ居ないだろう。むしろ、そんな事を考えている俺を知ったら、もうここになんか来てくれないかもしれない。
  そう考えるとすぐにシュンと悲しくなってしまう自分がいる。
 
 
 
 
 
  家に帰ると、珍しくも暗かった。
  着てくれる日は、晩御飯も作っているから明るいはずだった。何かあったのかと、素直に驚いてしまう自分がいる。
  こんな事なかった。
  いままでだって、絶対にきてくれていたから。
  仕事が長引いたのかな? とも思えてしまうが、そんなときは一言でも連絡をくれればいいのになんて。
  鍵も閉まっていたし、だんだんとしょげてくる自分がいる。
  ゆっくりと鍵を開けて中に入る。やっぱり人がいる様子なんて無い。ふかいため息を出しながらも、ゆっくりと靴を脱ぎ、リビングのほうに数歩向けて扉を開けたその瞬間、パッと電気が付くなり、パンッという力強い音がする。
「誕生日オメデトー!!」
  なんて、火薬の匂いと共にでてきたのは、昂哉だった。しかも、テーブルのほうにはなんだかいい匂いが渡ってきていた。
「えっ?」
  今日は何日だったっけとついついカレンダーのほうを見てしまう自分がいる。
「……あれ? 今日俺誕生日じゃないよ?」
  カレンダーの方を見なくても解っていたはずだ。今は真夏で、俺の誕生日は真冬で。真夏といえば、昂哉の誕生日だったはずだ。
「あったりまえじゃん! 俺の21の誕生日だよ」
  ベッと舌を出しながらも、鳴らしたクラッカーを片手に無邪気に笑っていた。
  俺は、記憶力とか本当に無いから、どうしても誕生日というものを忘れてしまう。もちろん自分の誕生日も、時々パッとでてこなかったりという。
「あっそっか……。おめでとう昂哉!」
  パァッと俺の顔は明るくなり、ついついギュッと俺は昂哉を抱きしめてしまう。
  昂哉の首についつい回してしまった俺の腕は、ギュッと俺と昂哉の間を狭めていて、服越しに体が密着してしまっていた。
  こんな事をする事は滅多に無いし、ここまでピッタリくっついた事なんて初めてだった。
  思わず感情のままやってしまった俺は、ハッと我に返ってグイッと身体を離した。が、その時に黙るのもイヤだと思い、にっこり笑ったまま俺は敢えて昂哉のほうを見ずにいう。
「21かぁ〜昂哉も年とったな〜俺だけ置いてけぼりかよ。ほらっ祝おうぜ」
  といって、一言も喋らなくなってしまった昂哉の腕を、グイッとつかんでテーブルのほうに引っ張っていく。
  さすがに、友達としても抱擁と思ってくれればと、心の奥底から念をこめる。
  出来る事なら、何も悟られずに今日一日を過ごしたい。
「うわー凄い! これ昂哉作ったのか?! お前ケーキも作れたのな!」
  ケーキを作っている姿を見たかったが、時間は戻るわけもなく。今度、休みの日にでも作ってもらおうかなと思いながらも、いつもの昂哉の指定席に座らせ、俺はその向かいにある自分の席へと座る。
  テーブルには、そのケーキだけではなく、祝い物のような食べ物が並びに並んでいた。
  この料金は、結構するんじゃないかと思いながらも、普通はこれは俺がやることだよなと少しばかりの罪悪感。
「ほらっ食べようぜ。あっ飲み物あるかな? 俺が注いでやるよ」
  こう言う時くらいと思い、俺は椅子を膝裏で押し出しながら立ち上がり、キッチンのほうに行って冷蔵庫の中身を見る。
「開けてすぐ左側にあるだろ?」
  リビングのほうからそう昂哉の声が聞こえてきた。
  買っておいてくれたのだろう。というか、台所の勝手なんて全く分からない状態になってしまっている事にも、いまさらびっくりしてしまったり。
「うん」
  ボトルというのか、ビンというのか。それを取り出し、俺はすぐに昂哉のいる元に行った。
  用意されていたコップに、俺は昂哉の分を先にトポトポと注いでやる。注ぎ終わるなり、スッと軽く立ち上がり、そのビンを昂哉が持とうとする。
「ん?」
「お前のは俺が注ぐ」
「でも……」
「いいから」
  はっきりという昂哉に逆らえなく、俺は大人しく手を離す。俺が座るなり、行儀良く注いでいくその方法までも本格的に見えて、少しばかり悲しくなってくる。
「ありがと……」
「ん」
  ビンをテーブルに置くなり、昂哉も座って二人同時にコップを持ってカランとぶつかり合わせる。
「誕生日おめでとう昂哉」
「はい。ありがとう」
  なんて、祝い事には欠かせない方法だった。
  暫く適当な話をしながらも、俺らは食を続けた。
 
 
 
  そんな時、急に話題が消えてしまい黙り込んでしまう空気。
  スッと口を開いたのは昂哉だった。
「お前さ、さっきみたいに抱きつく事って、いままであったっけ?」
  ビクッと跳ねる俺の身体。
  やっぱり、嫌だったりしたのだろうか。
  それに、余り抱きつかない事を、昂哉が気付いていた事にも驚いた。
「えっとぉ〜……無いかもな。なんか勢いで……なに? 嫌だったか?」
「いや……。嫌とかじゃなくて、他のやつとは普通に抱きついたり抱き合ったりするのか?」
  俺のほうを見る事もしない昂哉。
  黙々と食べながらも、その合間に口を開く。
「他のやつって?」
「仕事の人とか、友達とか知り合いとかに」
「えー? しないってば。なんで? っていうか、昂哉はモテるからよく抱き付かれたりとか、抱き合ったりしてるの?」
  彼女がいるとか言う話は今までしてこなかったし、言われた事もなかった。
  だから、いないだろうなと勝手に判断してしまってはいるが、昂哉に彼女がいないというのにも、首を傾げてしまう。
  高校時代からもてていたぶん、身体をあわせたりなんかはしたことはあるだろうとは思うが。
「別に? 意識的にはした事もされた事も無いよ」
「意識的には?」
「まぁ仕事柄、酔った席とかも同席したりするだろう? 俺は飲まないんだけど、女の人とかにたまに酔った勢いで抱きつかれた事は何度かな」
「……へぇ〜。なに? そのまま勢いでベッドも一緒とかは?」
「押し付けられた事はあるけどな。思いっきり引き剥がしたけど、なに? お前そういうの気にするの?」
「別に! 聞いてきたのはそっちだろう?」
  軽く睨み付ける様に昂哉を見るが、まだ俺のほうを見る事もしなかった。
  話す時は、目を見て話せ。という方式を教えたのは、半分昂哉だというのに。
「そうだな。で? お前抱きしめられたりするのって嫌いか?」
「べつにぃ〜。嫌いじゃない」
  今まで昂哉に抱きつくような行為をしてこなかったのは、そのまま離れたくなくなるだろうから。だからだというのに、そのことまでは気付かれていない。
  いや。多分、俺が恋愛感情的に昂哉を好きだという事にも、あまり気付いては居ないのではないのだろうか。
  出来る事ならば、気づかれたくない。
  そんなんで、友達を減らしたくも無いし、いまさら昂哉と離れる事なんかしたくない。
「……。おれさ、もう今日からここ来るの止めるわ」
  急にそういうなり、ポケットの中から俺が昔に渡した合鍵をテーブルの上におき、スーッと滑らせながらも俺の届く範囲の場所に置いた。
「えっ? ちょっちょっとまてよ。なんで? やっぱり抱きついたのが悪かったのか?」
「いや。そんなんじゃない。前から考えてはいたんだよ」
  俺の言葉に軽く首を左右に振りながらも、言葉を続ける昂哉。
 
――俺のことが……いやになった?

「なんで……? 俺なんか悪い事したか? 俺……昂哉に頼りすぎたかな?」
「違うんだ。落ち着け」
「じゃあなんでだよ!」
  持っていたホークを皿の上におき、俺のほうをチラリとも見ないで俺は昂哉を睨みつけ、怒鳴りつけてしまう。
「昂哉! 俺の顔を見ていえよ!」
「落ち着け……。仕事の事もあるんだ」
  仕事。
  これには逆らえない事だ。
  仕方が無い事でもある。普通の友達ならば、「ふぅ〜ん」で終わってしまうかもしれないが、俺が一方的に昂哉を好きな分、出来る事ならば、一週間に一回でもいいから会いたい。
  でも、それも仕事という事で押し切られてしまったら。
「……なぁ、昂哉は俺が……嫌いか?」
「……」
  スッと下を向いている昂哉の顔からも解った。渋っている顔をしていて、そうだといいたいけど、そんな事を言っていいのかわからないくらいに。
「……嫌いなら。嫌いって言ってくれよ。そしたら諦めるから」

 お前を好きな事を……。
 
「……嫌いだ」
  ピクッと耳が反応する。そうだよなと、口を開こうとしたそのとき、昂哉が再び口を開いた。
「俺を誘うようなお前なんか嫌いだ……俺の気持なんか知らないくせに」
  なんていいながらも、ゆっくりと立ち上がって、俺の隣にたつ。
  俺もそれに習うように、ゆっくりと昂哉の方を見上げる。すると、大きな手の平と、細く長くてきれいな指が両方から来ると思うなり、スッと俺の頬に触れて、軽く上を向かせる。
  漸く合った視線の。
  その顔は、凄く悲しそうで何を我慢する事もできなそうな顔だった。
  言った言葉はどういう意味なのか理解する事も出来ず、いきなり昂哉の顔が近づいてくる。
「えっ? こう……」
  スッと塞がれた口。
  すぐそこには、触れたくても触れられなかった昂哉の顔。
  唇には、昂哉の唇が触れ合っていた。

 捕まえた。
 
  なんだかそういわれた気分だった。
  思ったよりも柔らかくて、落ち着く昂哉の匂い。
  ゆっくりと腕を伸ばそうかどうか迷っている俺から、昂哉が離れていってしまう。
「……嫌いになっただろう? 料理が好きな事を知られたときからずっと、お前しかいないっておもってたけど。やっぱりお前の前で理性を保つのも無理だ。無防備な姿で寝てるし、何度俺はこの唇にキスをしたくなるかわからないのか?」
  スッと昂哉の親指が唇にソッと優しく触れた。
  そのときはっとした。どうして昂哉が、あんなにも乱暴に俺を起こす事になってしまっていたのかを。でも、その言葉は、いまだ幻聴を聞いているような気分だった。
  昂哉が、自分の事を好きと言っている事が、なかなか信じることが出来なくて。
「……昂哉……本当に?」
「こんな時にウソをついてどうする。でも、こういうのは嫌だもんなお前。だから、もう俺に近づくな。これ以上近づくと……お前をどうにかしそうで怖い」
  何を焦る事もなかった昂哉が、スッと恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした頬を、スッと腕で隠すようにしながらも、リビングを出るつもりなのか、スッと横を向いて歩き出そうとしたその腕を。
  思いっきりグイッと引っ張ってとめた。
「昂哉……」
  俺は立ち上がり、そのままさっきと同じように首に腕を回してギュッと抱きしめた。
「解ってないのはどっちだ馬鹿! 俺がずっと昂哉に抱きついたり出来ないのは、抱きつくのが嫌だったらっておもったり、離れたく無いって思ったりしちゃうから、抱きしめたくてもできないんだよ! 仕事が同じ人にも抱きついてみたけど、その人とは普通に抱きしめれるんだ……。でも、昂哉には抱きしめたくても、離れれなくなったらっておもって。離れたくないもん」
  暫く昂哉は黙った。
  背中に腕を回してくれる事もなく、ただボーっと俺の言葉を聞いてくれたかのように。
「……本当に?」
「こんな時にウソをついてどうするっていったのはどこの誰さ」
  軽くプゥッと頬を膨らまし、ギュッと腕に力を入れてみせる。
  すると、答えてくれるかのように、昂哉の暖かい手が俺の背中に回り、ギュウッと力一杯抱きしめてくれた。
「折角のケーキ……お前の体につけて舐めつくしたい」
「馬鹿!!」
  そんな事を言うやつだとはおもわなく、グイッと身体を離そうと、首に回していた腕を方に滑らせ、グイッと引き剥がそうとしたのを、昂哉の力でグイッと制される。
「うそうそ。食べ物でそんな事をするのは、ちゃんと恢(かい)を味わってからにしておくよ」

 そういって、優しく暖かい濃厚なキスを俺にくれた。
 
 
「これからは優しく起こせよ」
「任せて。寝顔を写した後に、暖かいキッスで起きる眠り姫になるんだろ?」
「うん。でも寝顔は写さなくていいから!」


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