BLTB 〜Before Lunch Time’s Battle〜
学園 女子高生 シリアス 短編 片思い  文字数約2400字
著作者:相田 凪   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
愛しき彼を巡って争う、ふたりの少女。
戦いの末に、彼と共に勝利に酔うのはどちらの少女か……
BLTB 〜Before Lunch Time’s Battle〜
両者の力が拮抗し、小さな灯火が花と散る。
 室内を幾度も反響して耳朶を叩くのは、金属同士が打ち鳴らされる甲高い悲鳴。二振りの得物を視界の正面に捉えたふたりの少女が、互いの瞳を睨めつけ嗤う。
「出会いがしらに杖を振り下ろすなんて、レディとしての資質が疑われますよ?」
 細身の身体に短髪が映える下級生が、わずかに高い上級生の瞳を見上げ口の端を皮肉に歪ませた。
 踏み込みと共に脳天へ目掛け叩き降ろされた漆黒の杖を受け、両手に掲げた軽量合金の棍が撓っていた。視界に敵を捕捉し、その攻撃を受けるまでの数瞬──超集中力がもたらす時間経過の歪みを受け、数分にも数時間にも伸びた永遠の一瞬の中、判断を誤っていれば怪我では済まなかった打撃の直後にしても、下級生は怯まない。
 左脚を引いて半身を開き、右手を前へ。膂力に任せて圧されていた杖が火花を散らせて棍を滑り、脇へと受け流される。その瞬間に生まれた上級生の隙をつき、右手に伸びる棍の先を首元へと走らせるが、優雅な巻き毛を絡め千切るだけに留まった。
「あなたこそ、その棍は何? 常日頃から折り畳んで制服の内側に隠し持っているなんて、もう馬と鹿の合成生物の所業ではなくて?」
 首を大きく傾げ棍を躱した上級生が、傾いた視線の中に捕らえた下級生を皮肉る。
 制服のスカートが翻ることもかえりみず、棍の追撃を側転して回避。続いての後転で間合いを広げ、手中の杖を下級生の眉間へ向けて突き示した。
「あなたに彼は似合わないわ。素直に退けば、今日のところは無傷で返してあげる」
「何という戯言を」
 下級生が普段の優しさを片鱗も見せぬ瞳を細めて上級生を睥睨し、自らの身長よりも長い棍を旋回させ小脇に抱えた。
「彼はわたしのモノですよ。そこのところ、間違えないでくださいね、先輩」
 言い終えると同時に跳ね上がる棍。その先端が近くの椅子とテーブルを掠めるのも構わず、必要最小限の動きと最短の軌跡を残像と化させ、上級生の杖を打ち払う。
 刀と槍では、俗に三倍と呼ばれる。間合いの差では圧倒的に有利な下級生だが、上級生の杖はその接近を許さない。
 華麗に回転した杖が強烈な刺突を巻き取り、さらに手中で半回転。掴みを逆手に持ち替えた杖に棍を絡ませ、自分の脇へと引き寄せる。
 想定外の方向へ力が加わり、前のめりにたたらを踏む下級生。掴まれた棍を引き寄せようと力をこめるが、体勢の不利が作用してうまくいかない。
 上級生の右手を離れた杖が、回転しながら綺麗な放物線を描き、左手へと吸い込まれた。自由になった右手で棍を掴み、その固定をより強固なものへ。
 上級生の顔に、勝利の喜びが先走った。
「甘いですよ!」
 右の肩口を狙って振り下ろされる杖を冷静に見守っていた下級生。その瞳が仄かな嘲りを含めて笑い、右脚を大きく引いた。
 その次の瞬間──小気味よい音を立てて、棍が中央より分解。その内に隠されたワイヤーが伸びきり、二節棍の本性を現すよりも早く、下級生は杖の降り降ろしを紙一重で躱していた。
 驚愕に見開かれた上級生の眼。咄嗟に右手の棍を離して間合いを離そうと後退するが、それが命取りとなり、勝負は決した。
 二倍以上に伸びた棍の間合い。ワイヤーで繋がれた一端が遠心力を伴って加速し、その先端を上級生の鳩尾へと叩き付けた。
「勝利は、ここにあり」
 杖を取り落とし、膝を突いてその場に倒れた上級生を穏やかな目で見下ろし、下級生が分解した棍をセーラー服の背の内側へと仕舞っていく。
「彼は、わたしのモノですよ」
「ま、待っ……!」
 死に物狂いで伸ばした手は下級生の脚を掴むこともなく、無様に空を掻いた。
 その切望の腕を躱すまでもなく踵を返した下級生は、その背後に佇む扉を観音開きに開け放ち、その先に広がる至福の世界を一望した。
 この世界そのものに興味などない。
 ただ求めるは、愛しき彼……
 ──だが。
 その至高の勝利を手にした下級生は、続く一歩を踏み出すことすらしなかった。
「……どうしたの? もう、彼はすぐそこよ?」
 敗北を認めた上級生が立ち上がろうともせずに下級生の背を見上げ、その不自然な空気に疑問を口にした。
「か、彼が……」
 それは、明らかな動揺。
「そんな……あなたは、誰……?」
 愛しき彼に手を馳せる、名も知らぬ少女の横顔。
「嘘……彼は、私のモノなのよ……?」
 口が急速に渇いていく。舌が痺れる。呂律が回らない……
「な、何が……何が、どうなっているの……?」
 扉の影に隠れた光景を見ることができない上級生が身を捩るも、視界は開けない。
 いったい下級生は、何にそれほどの動揺を隠せずにいるのか……?
 ──否、気付いていた。
 上級生も、薄々はその“まさか”に気付いていた。
 ただ、信じたくなかった。
「う、そ……でしょう……?」
 乾いた笑いが、力なく零れ落ちた。
 そしてその数瞬後、下級生の顔が動揺すらも忘れて瞳を見開いた。
「そ、そんな……彼が──」
「い、嫌! その先は言わないで……!」
「彼が、誰かも判らない少女の口に──」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 まるで何かの慈悲が如く、自然と閉まった扉が光景を遮る。
 遮断された世界に残された、勝者下級生と敗者上級生。そこにある音は、乾いた笑いと悲しみと嗚咽だけ。
「わたしたちは、最初から敗者だったんですね、先輩……」
 力なく振り返った下級生が、目を伏せて扉へ背を預ける。涙で歪んだ世界の中心に、かつてライバルだった上級生を静かに見据えて。
「そうね……争うことなど、意味がなかった……でも──」
「……でも?」
 手探りで手繰り寄せた杖で、本来の使い方で立ち上がる上級生。脚が悪いと言っていたのはいつのことだったか。争いの日々の中で、気付けば忘れてしまった。
 自らの脚で大地を踏み締め、立ち上がった上級生。その眼に情熱の炎を滾らせ、下級生の死人のような顔を睨みつけた。
 その視線を受け、下級生はようやく気付く。確かに、今日は負けた。でも──
「「明日は負けない!」」

 一日一個限定。購買部人気一位を誇る愛しきメロンパンの争奪戦は、終結を知らない。


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