恋人
カテゴリ、キーワード 現代小説 短編 シリアス ダーク 死  著作者:shizuku(mixiアドレス)   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
恋人を失った生と死の狭間に生きる主人公の話。
恋人
一冊の恋愛小説を読み終え、壁に掛けてある時計に視線を向けると二時過ぎだった。
今夜も眠ることはできなさそうだ。
不安と嫌気が頭の中で絡み合う。
一から整理しようと僕を悩ます元凶、つまり君の文章を広げた。
何度読み返したであろう君の言葉はまた僕の胸を痛ませ苦しめた。
読んでいる僕よりも、それを送った君の方が辛いのだろうけれど。
それにしても君の強さ、洞察力の良さ、賢さにはいつも驚かされていたね。
デート中、君が欲しがっていたコアラのコインを君がトイレに行っている隙に買い、別れ際にプレゼントした。
普通なら、少なくとも今まで僕が付き合ってきた人は「いつ買ったの?」と聞くだろう。
でも君は「ありがと」と言った。
唯それだけ。
君はわかっていたんだろうね。
僕がこっそり買っていたことを。
小銭が無くて、それほど好きでもない炭酸飲料を飲んでいた理由も。
あの時もだ。
一緒に電車に乗っていた時のこと。
いつもより少し混んでいた。
異性恐怖症の僕の周りにはその異性ばかり。
僕の恐怖症を知ってか、僕が嫌と感じているのがわかったのか、君は僕の手を取り救出してくれたね。
僕の眉間にはシワが寄っていたかもしれないけど当時僕は前髪を眉下まで伸ばしていた。
無表情に近い僕の顔と仕草を見て助けてくれたんだろうね。
君はいつも僕を見ていてくれたから。
どの思い出も僕の憶測でしかないだろう。
君は僕のことそれほど好きではないかもしれない。
何か、そう、罰のようなもので付き合っていたのかもしれない。
またこれも推測でしかないけれど。
事実なんて本人ですら知らない事がある。
だから追求しようなんて思わない。
求め、叶わず、苦しみ、壊れるのは僕自身だしね。
君に逢いたい。
今以上に好きになってしまうだろうけれど逢いたい。
逢って、抱き締めて、唇を交わし、吐息を感じ、もう一人の君にも会いたい。
君は僕のたった一人の恋人。
でも気付いたら君はこの世界から居なくなっていた。
何故?
何処に行ったの?
皆は天国に行ったなんて言うけれど、天国って何処にあるのだろう?
僕らはずっと楽園に居た。
二人だけの世界。
ねぇ、君は天国と楽園どっちが幸せ?
僕なら楽園を取る。
君が居ないこの世界なんて地獄でしかない。
天国という所も牢獄でしかないだろう。
どんな裁きを受けようとしても、最後まで君との楽園を選び続けるだろう。
免罪を勝ち取ることなんてできないか・・・
罪人の僕に免罪なんてあるわけない。
何故なら君を殺したのは僕だから。
なのに君に逢いたいなんて馬鹿みたいな話だよね。
愚かだよね

あれはほんの数週間前・・・

いつもと変わらぬ景色。
桜が散った並木道。
生暖かい風が、スカートをなびかせた。
隣には未だ秋冬用のセーラー服を着ている君が居る。
手には学生鞄、そして本を抱えている。
「暑くない?」
僕は聞いた。
「教室は寒いから」
君は言った。
「その本何?」
「小説」
「何てタイトル?」
「不思議の国のアリス。ルイス・キャロルの原作」
「原作・・・英語?」
「うん」
こんな友達にすら思えない会話での登校。
一応僕らは恋人として付き合っている。
始めは僕の一目惚れ。
今でもそうかもしれない。
君は僕に関心を見せることはない。
否、きっと君はこの世に存在する物や事に関心を示したことは無いのだろう。
将来の夢を聞いても主婦と答えるが、結婚について理想は無く、子どもも、家庭も、自分自身も時間の赴くままという感じだ。
無関心であるが故に、僕との交際をすぐにOKしたのかな・・・

なのに・・・
何故君は「死」に興味を抱いたのか・・・

授業が終わり、皆が下校して行く。
僕は校門前で図書館へ行った君を待つ。
「待ってて」って言われたから。
1分。
土色に染まってしまった桜。
5分。
飛行機雲。
10分。
胸騒ぎ。
13分。
周囲の音が反響する。
14分。
もう待てない!
僕は走って図書館に向かう。
意識はしてないがかなりのスピードで走っているのであろう、皆が風を感じ振り返る。
図書館の前には人だかり。
やはり何かあったのかと割り込んで覗く。
そこには君・・・
は居なかった。
そこは生徒の2人(男女)がはにかみ、皆が拍手し、幸せそうな空間だった。
何処にも君の姿はないと確認して4階の君の教室へと向かった。
途中、異性の担任に「廊下を走るな」と注意されたがそんなの構いはしない。
唯、君に会わなければならなかった。
息切れをし、咳を漏らしながらも君の教室へ辿り着いた。
君の教室はドアも窓も閉まっていた。
鼓動が走っていた時以上に高まる。
何かを感じる。
教室のドアを開ける。
恐怖と不安で苦しくなりながらも。
君を見つめた。
君を。
君・・・
「待っててって言ったのに」
「何で・・・・・・?」
君は封筒とナイフを持っていた。
ベランダで。
上履きを脱いで。
「大好きだよ・・・」
「僕も、大好きだよ!?だからやめっ!」
遅かった・・・
遅かった・・・・・・
遅かった・・・・・・・・・
「うわゎぁぁぁぁぁっっ!!!!」
叫びにならない程の叫びが校内に響き渡り、すぐに先生や他の生徒が来た。
もちろん君が居る、否、君が在る場所にも。

その後の記憶は曖昧だ。
まず救急車が来た。
次にパトカー。
僕は重要参考人兼容疑者として警察署まで連行された。
彼女が持っていた封筒、遺書で「自殺」と判明され、僕はすぐに帰れた。

僕が今、読んでいる物。
君の封筒の中に入っていた僕宛の手紙。

『ごめんなさい。
ごめんなさい。
びっくりしたよね、
泣いたよね、
苦しんだよね、
ごめんなさい。
私は貴方の恋人として何もしてあげられなかったよね。
ごめん。

昔、貴方は私の手首の傷を見て心配したことがあったでしょ?
あの時から自分を傷付けていました。
貴方に「どうしたの?」って聞かれて、胸が痛くなった私は手首は切らなくなりました。

私は知りたかったの。
人は何を求めて、何処に消えていくのか。
だからこの道を選んだ。
ごめんなさい・・・
貴方に逢えて本当によかった。
貴方の恋人になれて、本当に、本当によかった。
エゴだよね・・・
ごめんなさい・・・

大好きです。
愛してます・・・』

何を想いながら君はこんなものを書いたのだろう。
何故こんなものに気持ちを託し、この世界から居なくなってしまったのだろう。
何故あの日、あの場所、あの時間を選んだんだろう。
何故僕に相談してくれなかったのだろう。
何故君を好きになってしまったのだろう。
何故・・・僕のことを好きでいてくれたのだろう・・・

慣れない吐き気、嫌悪。
この感じは
この先ずっと
ずっと・・・
君に会うまで続くだろう。
また今日も、手首を切った。



著作者:shizuku(mixiアドレス)   著作者の作品一覧へ 作品の著作権は著作者にあります。無断転載は厳禁です。

  



ホーム>オンライン小説,ネット小説,ウェブ小説,ライトノベル総合の投稿小説空間へ