愛と血のダンス
現代小説 女主人公 バトル シリアス  文字数約3500字
著作者:大根メロン   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
 ――夜の街。
 2人の少女――アリサとマリアは銃を握り、殺し合いを続ける。
 どちらが強いか。それを、確かめるために。
愛と血のダンス
 銃声が鳴り響く。
 夜の帳が下り、闇に包まれた街の中。
 人通りのない街路を、赤と青の少女が駆け抜ける。
 ある時は大胆に身を晒し、またある時は遮蔽物に身を隠し、2人は苛烈な戦闘を続けてゆく。
 交わす言葉はない。両者の間を行き来するのは、殺意の宿った鉛弾のみである。
 赤い服の少女――アリサの手にあるのは、コルトSAA。
 ピースメイカーの愛称で知られる、シングルアクション・リヴォルヴァーだ。
 右手の指をトリガーに掛け、左手をハンマーに添えた姿勢のまま、アリサは敵を探る。
 ……一瞬だけ。
 夜闇の中に、青が見えた。
 逡巡はない。アリサは即座にトリガーを引く。
 落ちたハンマーをすぐに左手で起こし、瞬く間に6連射。
 ……だが、敵を討った感覚はない。
 ローダーを使い、ピースメイカーに装弾。リロードは僅か1秒。
 ……街路樹の陰から、青い影が躍り出る。
 青の少女――マリアの銃が、咆哮を上げた。
 FN Five-seveN。携帯性と貫通力の共有を、弾丸の特殊化によって実現したセミオートマティック・ハンドガンである。
 SS190弾が、アリサの服を掠めた。曲芸師のような身のこなしで、アリサは街路樹の陰へと飛び込む。
「……貴方の連射は見事です。しかしそのような大道芸、弾切れを早めるだけですよ?」
 闇の中のどこからか、マリアの声がした。
 ふん、と鼻を鳴らすアリサ。
「余計な世話よ、何を言われる筋合いもない。教科書通りじゃ、上手くいかない事もあるのよ?」
「そうですか。では――死んでください」
 同時に、陰から駆け出す2人の少女。
 それぞれの銃口から、相手を撃ち抜かんと弾丸が吐き出される。
 しかしやはり、ピースメイカーは装弾数が少ない。
 対して、マリアのFive-seveNには20+1発の装弾が可能である。撃ち合いになれば、どちらが有利かは瞭然だ。
 アリサの装弾は、確かに素晴らしいスピードではあるが――それは、マリアとて同じ事なのだ。リロードのテクニックで、差が付く事はない。
「チ――ッ!」
 弾丸の雨に耐えかね、近くの民家に窓を破って入り込むアリサ。
 ……ピースメイカーに、弾を込める。
「この家の人は――就寝中か」
 しかしそれも、アリサが飛び込んで来る前までの事だ。
 2階からは、慌しくバタバタと音がする。家人が起きて来たのだろう。
「あ、貴方――誰?」
 パジャマ姿の少女が、1階に下りて来た。
 アリサは、彼女にピースメイカーの銃口を向ける。ひっ、と悲鳴を上げる少女。
「2階に戻って、大人しくしてなさい。そうしてれば、嵐は勝手に過ぎるから」
「え……あ……」
「――早くッ!」
 アリサの大喝に身を震わせ、走り去って行く少女。
 これで、ひとまずは安心だ。アリサが2階に逃げ込まない限り、少女が巻き込まれる事はない。
「あー……でもこの家、派手に壊しちゃうわね。ま、後で謝るか」
 生き残れなければ、それも無理になるのだが。
 アリサは音を立てぬように家内を歩き回り、構造を探る。
 油断は禁物だ。既にマリアが、この家に忍び込んでいる可能性もある。
 廊下を進む。
 ……数歩先の左側に、ドアがあった。部屋があるらしい。
「――……」
 足を止めた。
 瞳を閉じ、精神を集中する。
 そして――
「――ッッ!!」
 眼を開けると同時に、後方へ跳躍。
 一瞬の後。左側の壁を撃ち抜いた弾丸が、アリサの眼前を通過した。
 少しでも後退が遅ければ、アリサに命中していただろう。文字通り、命に中る。
「……っ」
 ゾッとした。
 左の部屋に、マリアが潜んでいるのは間違いない。
 アリサは、少しの声も出さなかった。足音も、ゼロに近かったはずだ。
 なのにマリアは、適確に銃撃して来た。気配と勘だけで、壁の向こうのアリサの位置を完璧に読んだのだ。
 ……部屋に、突入するか否か?
 考えるまでもない。マリアは壁を挟んでも攻撃出来るが、アリサにそれほどのスキルはない。闘うには、相手の姿を捉えなければならないのだ。
 ドアノブと蝶番に弾丸を撃ち込み、ドアを真っ直ぐ倒す。これなら、ドアの陰に隠れられる事もない。
 弾をリロードし、部屋に突入。
 ――ピースメイカーの.45LC弾とFive-seveNのSS190弾が、交錯する。
 少女達は、驚異的な身体能力で初撃を躱し――互いの頭に、銃口を突き付けた。
(殺った――ッ!)
 勝利を確信する、アリサ。
 ピースメイカーの構造は、Five-seveNに比べると余りにも単純だ。しかし、それ故に――速い。
 刹那にも満たない差。だが2人にとっては、決定的な差となる。
 アリサは、トリガーを引こうとしたが――
「……ッ!?」
 敵も然る者。アリサが勝利を確信するより早く、マリアは不利を理解していた。
 勝負を捨て、跳び退くマリア。部屋の中から退却する。
「な……あのシーンで逃げるか、普通!? ノリの悪い奴ねッ!!」
 滅茶苦茶な悪態をつきながら、アリサはマリアを追う。
 焦らず、ゆっくりと歩いて進む。
「……思い出しますね」
 廊下の先から、マリアの声が届いた。
「初めて逢った時も、私達はこうやって撃ち合いました」
「ふん。あんたも私も、負けず嫌いだったし。どっちが最強のガンナーかを決めなければ、気が済まなかった」
「結局、互いに弾が尽きて引き分けでしたね」
「……今考えると、かなり情けない終わり方よね」
 殴り合ってでも決着を付けるべきだったか――とアリサは思い、すぐに考えを改めた。
 銃で決めなければ、意味がない。
「決着は先延ばし。私と貴方は、何故か気が合った」
「拳で語り合って、友情を築いた訳だ。拳って言っても拳銃だけど」
「……友情、ですか。しかし、それが深まる毎に――どちらが強いか、という想いも深まっていった」
「だから、こうして決着を付けようとしてるんでしょ。……で、何で急にそんな話を始めたの?」
「貴方を殺す前に、言っておきたい事がありまして」
「…………」
 アリサは、足を止める。
 数秒の後に、聞こえて来た言葉は――
「――愛しています、アリサ。永遠に」
 何度も聞いた、陳腐な愛の言葉だった。
「……私もよ、マリア。貴方が死んでも、ずっと忘れないわ」
「ふふ、死ぬのは貴方ですよ――」
 声が、遠くなってゆく。
 再び歩を進め、追跡するアリサ。
 辿り着いたのは――リヴィングへと続くのであろう、1枚のドア。
 ドアの、外と内。
 2人の少女は、ここが決着の場になると本能で悟った。
 ……愛銃に、キスをする。
 アリサはピースメイカーを構え、リヴィングに跳び込む。待ち構えていたマリアは、Five-seveNを向ける。
 ……2つの銃声が、重なった。



「ぐ……ッ!!?」
 アリサは、撃たれた傷口を手で押さえる。
 Five-seveNのSS190弾は、貫通力に優れる弾丸だ。しかし人体に対しては、貫通する事なく――体内に留まり、傷を深くする。
 アリサの腹から、止まる事なく流れる血。彼女は、もうまともに動けない。
 銃における戦闘の、常道だ。狙い易い胴を撃って動けなくし、その後にトドメを刺す。
 もはや、アリサに生きる道はない。
「バーカ……教科書通りじゃ上手くいかない事もあるって、言っただろうに」
 ……マリアが生きていれば、の話ではあるが。
 アリサの眼前に、彼女は倒れていた。
 堅実に胴を狙ったマリアと、博打で頭を狙ったアリサ。
 結果――マリアは額にピースメイカーの弾丸を受け、命を絶たれたのだ。
「――……」
 アリサは眼を閉じ、愛する人の冥福を祈る。
 そして、笑った。
「じゃ、最強は私で決定ね……っ、あー……」
 出血で、アリサの意識が遠のく。
 胴を穿たれた激痛すらも、少しずつ感じなくなってゆく。
「これは……ちょっとまずいかなぁ……」
 瞼が落ちる。
 感覚は、眠りに入る時と似ていた。



「……?」
 銃声が止んだ。
 2階で震えていた少女――リリカは、恐る恐る階下へと向かう。
「ひ……っ!?」
 リヴィングは、血の海と化していた。
 見知らぬ青い少女が、頭から血を流して倒れている。
 そして――先程リリカに銃を突き付けた赤い少女も、壁に背を預けて意識を失っていた。
 ……まだ、息はある。
「泣いてる、の……?」
 赤い少女は、涙を流していた。
 綺麗な、水晶の如き涙。
 父と母を事故で失ったリリカは、知っている。大切な人を亡くした時、こういう涙が零れるのだ。
「……っ」
 リリカは、電話に飛び付いた。
 青い少女は手遅れだが、赤い少女はまだ助かる。
 病院には連絡しない。面倒事になるのが、分かり切っているからだ。
 なので――事情を黙っていてくれそうな、個人的な知り合いの医者に電話する。無免許の、闇医というやつだ。
「――……」
 もう1度、赤い少女を見る。
 助ける理由は何もない。彼女は家に押し入って銃撃戦をした挙句、人を撃ち殺したのだから。
 ……でも。
 あんな風に、涙を流せる人間は――まだ、死んではいけない気がした。

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