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[あらすじ]
ある雨の日、志乃は一人教室で大嫌いな雨がやむのを待っていた。そこへ来たのは、
思いをひそかに寄せていた相手、良平だった。 |
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雨の日は、あなたと
――あの日、どうしてあなたはあたしに電話をしてくれたの?
季節は冬、そして今日は朝から雨。ずっと降り続けていて、どうしてもやまない。校庭は水浸しで、廊下も湿気により良く滑る。そしてなにより、あたしは雨が大嫌いだった。傘を差して歩いて学校まで来なきゃいけないし、制服やカバンもぬれるし、とにもかくにも冬の雨は冷たい。だからあたしは、雨が大嫌いだった。
「ハァ……」
ため息一つ。放課後、あたしは一人、教室で外を眺めていた。一粒一粒、雨は線を引きながら空から落ち、地面へ染みていく。見てて飽きないわけではないけれど、なぜか身体が勝手に窓を向き、目は雨を追いかけてしまう。
「ハァ……どうするかなぁ……」
傘がないわけでもない。まず、朝はきちんと傘を差して歩いてきたわけだし、そこが問題なわけではない。ただ、この雨の中を歩いてかえるのが嫌なのだ。朝は、時間もないわけで、しぶしぶ来たのだが、放課後は時間もあり、なかなか足が動こうとしない。
「だって、雨にぬれるの嫌だし……」
一人言い訳をつぶやきながら、窓から外へ手を伸ばす。雨粒があたしの手のひらに落ちて、はじかれる。
「冷たいなぁ……」
この雨がせめてお湯ならば、帰るのもそんなに嫌じゃないかもしれない。いや、そんなことはない。どちらにしろ、ぬれてしまうのだから、変わりはない。
まぁ、雨がやむことが一番なのだけれど。
あたしはずっとそれを待っていた。雨がやむことを。外では雨が降っているため、部活は体育館でやっているバスケ部と、校舎内にある文化部などの生徒が残っている。とにかく、今は教室にはあたししかいなかった。雨、一人、教室……少しだけ、寂しかった。
本当は、雨がやむことを待っていただけではなかったのかもしれない。
「あれ、なにやっとんの?」
ふと、後ろから声がかかる。あたしは驚いて、バッと顔を振り向かす。そこにいたのは、あたしがひそかに思いを寄せていた良平(りょうへい)だった。
「え、あ……りょ、良平?」
「なんや、志乃かよ」
「なんや、とはなによ〜」
きっとほっぺは紅くなっているはずだ。徐々に、顔に熱がこもり始める。
「帰らへんのん?」
良平はふとあたしに尋ねた。あたしは、そっと窺うようにして外を見る。まだ、雨は降り続けている。
「帰るけど……まだ……。ってか、良平は?バスケ、終わった?」
あたしは教室にかけてある時計をチラッと見る。時刻は4時50分。冬は5時下校だから、もうクラブは終わっているのだろう。
「終わった。教室に宿題忘れてたから、取りにきただけやし」
そういって良平は、自分の席に歩み寄る。あたしはその後姿を、目で追っていく。
「ってか、いつまでおる気?もう帰らんと」
確かに、いくら残っていようと、待っていようと、もうやみそうにない。
「はぁ……やっぱり、帰ろっと」
あたしは立ち上がり、カバンを肩にかけた。すると、良平は照れくさそうに言った。
「雨結構降っとるし、危ないけぇ、一緒に帰るか?帰り道、一緒やし」
「え?」
あたしは呆然と立ち尽くした。まさか、そんな誘いが来るとは思っても見なかったからである。
「傘、あるん?」
「いや、その……」
さっきの言葉で、一気に恥ずかしくなり、言葉が上手く喋れない。本当は、「うん、一緒に帰ろう」と言いたいのに……。
「傘ないんなら、一緒に走って帰ろうや。」
「……うん」
どうせ濡れてしまうのならば、それでもいいかな。そう思い、傘を差さずに、良平と一緒に走って帰った。風邪を引いてしまうのを承知で、「このまま時間が止まっちゃえばええのに」と乙女ちっく、否、バカなことを考えたのは誰でもなくあたしだった。
「……へっくしょーん!!!!」
やはり、帰って家に入った途端寒気に襲われた。くしゃみがとまらない。
「もう、傘持っていたんに、何で使わずに帰ってくるん!?」
案の定、母さんにもしかられた。
「すみません……」と、あたしは頭を下げた。
あたしはそっと、2階の自分の部屋に逃げるようにして入った。
――ピーポーピーパー
軽快な電話の着信音が鳴る。どうやら、下の1階にある家の電話のようだ。と、あたしを叫ぶ声が下から轟く。
「志乃―!!電話よー!!!」
あたしは降りるのもなんだったため、2階の廊下にある子機に保留してもらった。
ピッ、と点滅する保留ボタンを押す。
「はい、もしもし……」
一瞬沈黙が続く。
「……もしもし、志乃?」
良平だった。
「え、あ、う、ん?……志乃、だけど……」
「おぉ、志乃か」
納得するように返事をする良平。あたしは気持ちが舞い上がっていて、どうもこうも言葉を上手く話せない。
「大丈夫だったか?」
「え?なにが?」
「いや、雨でぬれて帰ったやん?……俺は男やけんいいけど、お前は少しきつかったかなぁって思ってさ。やっぱ、女やし」
――女だし。その言葉が頭に焼きつく。痛いほど。
「ううん、たぶん大丈夫やけぇ」
「よかった」
安心したような声、あたしはもう心臓が飛び出そうでたまらない。電話越しだといえど、鼓動が聞こえてしまうのではないだろうか?
「まさか……それだけ?」
「え?あ、うん」
今度は、良平のほうが照れてしまったようだ。あたしは、「ふふっ」と笑ってしまう。
「笑うなやっ」
「え、あ、ごめん、つい……嬉しくて」
素直に言葉が出た。かすかに、目に涙がにじむ。うれし泣きだった。
電話だからなのだろうか。顔が見えないからこそ、伝えなきゃいけないという気持ちが大きい。自分の言葉で、自分の気持ちを、本当の気持ちを、ありのままに。目が見えないからこそ、一心に思いを募らせ、ぬくもりを感じられないからこそ、声にその暖かさをこめる。電話って、不器用に見えて器用なものだな、と思った。
「……照れるやんけ」
良平は、本当に照れていたらしく、そう言った。あたしもつられて照れてしまう。
「明日、ちゃんと来いよ?」
「モチロン、良平に電話までしてもらって、行かないわけないがっ!」
「おっし、約束や」
「わかった」
そう言って、別れの挨拶を告げ、あたしは電話を切った。電話の画面を見る。3分14秒。それだけしかない会話だったけれど、すごく心に残る会話だった。
明日学校に行って、良平になんて言おうか。
「電話、ありがと」 「良平も大丈夫だった?」
一本の電話で始まった、明日への思い。与えられた感動、声の暖かさ、それを全部背負い込んで、あたしは明日あなたに会います。
もし風邪をこじらせて学校に行けなかったら、今度はあたしが電話でもしようかな。
そんな思いを胸に馳せ、あたしは再び明日への時間を刻み始めた。
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