友情お試し期間
現代小説 友達 泣ける  文字数約4200字
著作者:一華   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
ある日、香枝のもとに一通の手紙が届いた。それは、いわば『ラブレター』と言う名
のつくものだった。その一通の手紙をもとに始まる、香枝と大親友・柚月とのケンカ。
――自分は悪くない、でも柚月も悪くない。
本当の親友とは、友情とは、恋愛とはなんなのだろうか?
友情お試し期間
 
 
 ある朝、香枝の靴箱に一通の手紙が入っていた。それが、何もかもを変える、運命の代物だった。

「へ?何これ……」
彼女――藤堂香枝(かえ)は、その手紙をいぶかしげに見た。何も変哲のない手紙。
いや、ただあることを除いては……。そう、封筒にはられた、赤いハートのシール。
少々古いような気がするが、今更そんなこと考えられなかった。つまり、それは――恋文なのだから。
「おっはよぉ〜、って、え!?朝から、香枝ちゃんズルい〜」
「おはよ、ってか、何がズルいのよ?」
彼女に後ろから声をかけたのは、香枝の親友の木村柚月(ゆづき)だった。
香枝は、柚付きの態度に突っ込みを入れつつも、なんとなく真剣な顔になる。
「誰からなんだろ……」
少し低めの声で、手紙をじっと見つめる。
「ミチからだったらいーね!」
「っなわけないじゃん!」
即答で返事を返す香枝。
 香枝は同じクラスのミチ――こと、高杉道春、通称『ミチ』が好きである。
彼は誰にでも優しい性格であったため、人気が高く、クラスの女子や先輩、後輩、はたまた先生からの支持率も高い。
そして、柚月は二番目に人気の悠――稲沢悠(ゆう)を想っていた。
だが人気とは言えど、悠は女遊びが激しいと言ううわさも立っており、ただ単に『顔が良いから』と言う理由で支持されているような者だ。
香枝と柚月は中学からの親友で、高校2年生になった今も、親友という形を保ち続けていた。
ミチと悠も親友同士で、香枝と柚月とは中学からの知り合いである。そして、ずっと片思い。
中学生だったあの時も、高校生の今も、ずっとずっと片思いである。
「でもさー、コレだけうちら想ってきてるんだから、ありえないハナシじゃないよねー」
「そーだけどさぁ……まぁいいや、よしっ!」
香枝は、思い切って封筒を開けてみる。中から現れたのは、一枚の便箋。罫線だけの、シンプルなものだった。
 香枝がまず先に目にしたのは、一番下の段にある送り主の名前だった。中身の文よりも、誰が送ってきたのかの方が知りたかったからだ。
「え……?」
香枝は、それを見て固まってしまう。
「え〜、なに固まってんの〜?見せてよ〜」
柚月は、ひょいっと顔を出して送り主の名前を読む。
「……稲沢……悠……?」
続けて柚付きも立ち止まってしまう。
 なぜなら、柚月が片思いをしていた稲沢悠が、香枝に恋文を送ってきていたのだから。

「ねぇ、香枝」
香枝の中で、過去の思い出が脳裏に蘇る。中学生の頃、初めて隣の席になって、意気投合して。何でも話せて、何でも訊けて、柚月と親友になったときのこと。
「なぁに、柚月?」
「えへへっ、あたしたち、しんゆうだよね!」
「もちろんだよ!」
たまにケンカしちゃうときもあったけど、それでも無事に今までやってこれた。思い出、二人だけの秘密、たくさんたくさん。
 でも今、少しだけそれが、足元だけ消え去っていくような気がしたんだ。
 たったの、これだけのことで。

「付き合ったり……しないよね?」
「え……?」
柚月の瞳には、少しだけ涙が溜まっていた。香枝は、直視できず下を俯く。
「付き合ったり……しない……よね?」
「も、もちろん。あたしは、ミチ君のことが好きなわけなんだし……」
「そう、だよね」
でも、そのときわかっていたのかもしれない。柚月には、わかりきっていたのかもしれない。
もしたとえ、香枝が悠と付き合わなかったとしても、それを自分が阻止できたとしても、悠は自分のことを見てはくれないのだ、と。どれだけ自分がアピールして、がんばっても、悠は香枝ばかり見続けるのだと――自分のことは、見てはくれないのだと。
「そう……だよね」
「柚月!?」
柚月は走り出した。追いつけないような、速さで。実を言うと、柚月より変えのほうが足は速い。だが、香枝は追いつけなかった。否、追いかけられなかった。ずっと握っていた手なのに、一瞬で離してしまった。そんな感じ、ココロに風がすぅっと吹いた。
「柚月……」
香枝はその場にへたり込みそうになるが、必死に足に力を入れ、立っている状態を何とか保った。放心状態、何も考えられない。考えたくない。信じたくない。
「……あたしが……悪いの?」
一人、つぶやく。返事はない。
「……なんで」
香枝は、じっとその手紙を見つめた。じっと、じっと、穴の開くくらい。
 この手紙さえ来なければ。悠が、自分のことを想っていなければ。こんなところで、すぐ開封しなければ。なにもかも、全てを責めたい。……そう。
――悠が、柚月のことを好きでいてくれたら……。
 それだったら、今こんな状況が起こらなかったはずなのに。どうして、上手く運命って動かないんだろう。
「なんで」
再び同じ台詞を香枝は吐いた。

「……」
教室に行っても、柚月とは話せなかった。目も合わない。合わせられない。香枝は一番前で、柚月は列違いの3つほど後ろの席で少し離れているが、いつもなら目も良く合うし、遠くても声はかけられる。それにまず、気持ちが繋がっていたはずだった。
なのに、何もかもがすれ違う。
「……柚月」
あたしはそっとつぶやく、小さな声で。いつもなら、「なに?」と返事してくれるのに、今はその返事さえもない。何も返ってこない。いつもあるはずのものが、すっぽりと抜け落ちていた。
「もう、無理なのかな……」
無理と定める理由もないはずなのに、頭が勝手にそう結果を求め始める。無理なんて思いたくないのに、また二人で笑い合いたいのに。
 なのに、心の闇がそれを望もうとしない。
――別にあたしは悪くない。
――勝手に起こった柚月が悪い。
やめて、お願い誰か止めて。
――告白されて、なにがいけないの?
――やっぱり、あたしは悪くなんてない。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
香枝は周りのことなど考えずに、叫んでしまった。頭の中でその闇が膨らみ、爆発してしまったのだ。
が、ふと我に返る。
「あ……」
周りの冷たい視線。柚月は、こちらを見ようともしない。あたしは、慌てふためく。
――逃げたい。
 その一心で、あたしは教室から飛び出してしまった。いてもたってもいられなかった。震える足を必死に動かし、少しでも早くと思いながら、この教室から逃げ出した。

「ハァ……ハァ」
気がつけば、屋上にいた。何度も、何度も柚月と来た場所。本当は来たくもなかったけれど、授業中でもあるため、先生に見つかりにくいと言ったらこの場所ぐらいしかなかったからだ。
「……なんでよぉ……」
 コンクリートの地面にひざをつき、拳を思い切り握り締める。
「どうして……」
行き場のない怒り。誰が悪いのかもわからず、自分を責めるにもその理由が見つからず、かといって柚月を責めるには、心の闇が足りなかった。
「あたしが悪いんじゃない、柚月が悪いわけでもない……」
――じゃあ、なんで……
――どうして、あたしは今泣いてるの?
 香枝は泣いていた。なぜ泣いているのかもわからず、どうして涙が出るのかもわからず、ただ純粋に、泣いていた。

――どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。

 行き場のない怒り、それよりも先ににじみ出るのは行き場のない疑問。誰かが悪いことをしたわけでもないのに、結局は誰も悪いわけではないのに、どうしてこんなにも罪悪感に自分がかられているのか。
「……わかんないよ……なんにも」
誰も教えてくれない、だって答えがないのだから。どうもできない、なにもできない、ここから動くことのできない、解決できない。
「柚月……」
香枝はそっと、つぶやくのだった。
そしてそのまま、香枝は教室に戻ることもなく、そこで一日を過ごしたのだった。頬には涙のあとがまじまじと残っていて、目は腫れぼったくなっていた。そしてココロは、ボロボロに疲れきっていて、涙なんてもうすでに枯れていた。
 
 次の日、空は高く澄み渡り、朝がやってくる。香枝は、ゆっくりと目を覚ます。だが、目の下には明らかなクマができていた。どうやら、眠れなかったらしい。
「……こんなに寝ていて疲れたの、初めて……」
香枝はゆっくりとぼやいた。
 昨夜、疲れていたこともあるので、早めに寝ようとしていた香枝だった。が、布団の中にもぐりこんだのはいいが、なかなか寝付けなかった。目をつむれば、たくさんの残像が脳裏をよぎるからだ。
――今日起こったことのすべて。
 全てが初めてだった。寝付けなかったことも全て、全部。告白されたのだって、初めてだった。そして、こんなケンカしたのも初めてだった。こんな後味の悪い――果たしてケンカと言えるのだろうか?――ケンカをしたのは初めてだった。
 普段ならどちらかが悪く、ケンカを引き起こすが、時間が経てば互いに耐えられなくなり、自然とどちらかが謝り回復する。
 だが、この場合、どちらが悪いのかがはっきりとしてはいない。だから、謝ろうと思えないし、謝るタイミングもない。
「学校、行きたくないな」
心の中に溜まった嫌悪感、罪悪感、それらの気持ちが足を重たくさせていた。動かない、動けない、動きたくない。行きたくない、会いたくない、これ以上自分を傷つけたくない。
「……人間って、そういうものなのよ……」
今までの自分ではありえなかった言葉が、ふと口から出た。世の中の黒くて暗くて、嫌なところを見据えたような言葉。
ハッと、香枝は驚く。どうして、こんな自虐的な言葉を口にしたのだろうか。
「いやだ、こんなあたし……違う、違う、やめてぇ!!!」
香枝は、身の毛もよだつような感覚に襲われていた。自分に対しての憎悪が、溢れんばかりに自分を飲み込む。苦しい、狂うしい、どうしてこんな目に遭わなくてはならないのか。どうして自分ばかり。
――そう思うしかない、自分が大嫌いだ。

これから、自分はどれくらいまで堕ちていくのだろう。いつまで、堕ち続けるのだろう。ちゃんと底へつけるのだろうか。ずっと、ずっと堕ちていって、誰かが手を差し伸べて、助けてくれることをただ祈りながら、それでもずっと、ずっと堕ちていくのだろう。
ずっと、ずっと。堕ちていく。
自分が自分じゃなくなるその時まで。
自分が、自分だと言うことを忘れられるその時まで。
ずっと、ずっと、堕ちていくのだろう。
誰も止めてくれない、誰も止められない。
それでも、自分は堕ちていく、底のない泥沼の中で、もがきながらも。

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