君と手を繋ぐ

著作者:志祈   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
同じクラスの羽野藍(はの あい)くん。
佐伯悠(さえき はるか)は彼と図書室で偶然出会う。
その日から悠は藍のことを意識し始めるのだが、彼は少しいわく付の人間だった…

2人の関係とまた友人等との人間関係を描きます。
君と手を繋ぐ
風が吹く、
空が青い、
窓の向こう、
その手はもう、

届かない…………









斜め横から射す光。
校庭から聞こえる野球部の掛け声。
廊下ではブラスバンド部の子が練習をしているのか、
秩序のない音はハーモニーになる事も無くただ響きわたる。

放課後の図書室で一人、悠はふてくされたような顔でカウンターに腰掛けていた。
運悪く新学期の図書委員に選ばれてしまったのだ。
高校2年にあがり、新しい友達も増えた。
みんなと遊べる放課後、それを潰されてしまうのは苦痛で仕方がない。
しかし、それをサボる程の度胸を持ち合わせてもいなかった。
今日は初めての当番だ。

―さて、何をしたらいいんだろ…

説明を聞いてはいたものの筒抜け状態で何をしたらいいのかわからない。
とりあえず返却された本を棚に戻すことにした。
もっとも、2冊しかない為その仕事もすぐ終わってしまうのだが。

コトン

不意に本棚の裏から音がした。

―あれ?私以外にも人いたんだ。

そこは生徒用の学習机が並ぶ場所なのだが利用する生徒はほとんどいない。
図書室自体、図書委員がいるかまたはサボって誰もいないか、
という程利用者が少ないのだ。

悠は恐る恐る覗き込んでみた。
するとそこでは男子生徒が学習机で一人、寝息をたてていた。
悠はその男子生徒に見覚えがあった。

―確か同じクラスの…

クラス替えがあったばかりでまだクラス全員の名前を覚えてはいなかった。
女子の名前ならほぼマスターしたのだが男子はまだ目立つ人を2、3人覚えただけだ。

―え〜っと、そうだ!


「羽野藍くん!」


女の子みたいな名前だなと思った。
その為か他の男子生徒より記憶に残っていたのだ。

ガタッ!!

次の瞬間藍は椅子を倒しそうな程勢いよく立ち上がった。


「…何?」


その行動とは相反して藍は淡々とした口調で悠に問い掛けた。
悠のことを一瞥し窺うような表情を浮かべている。


「えっ!!…あっと…ごめん、別に何ってわけじゃないんだけど…」


悠は思わず声に出していたことに気付き慌てふためく。
顔は高揚し、両手をバタつかせている。

藍は自分に用が無いことを知ると溜め息をついた。
その行動に悠はビクッと体を強張らせた。

―変な子だって思われたかも…

いきなり用も無いのに名前を呼ばれれば誰だってそう思うはずだ。
藍は机の上に置いてあった鞄を手に取ると歩き出した。

―このままじゃ印象最悪だ!

そう思い悠はそっと横を通り過ぎようとする藍に手を伸ばした。


「あっあのね!私同じクラスの…」

「―――触るな!!」

「!?」


悠の手が藍の腕に触れる寸前で、藍は悠の手を激しく振り払った。


「あっ…悪い…」


藍は自分の行動に少し困惑した表情を浮かべていた。
悠は驚きで目を見開いている。

―え…私そんなに嫌われた…?

悠は身動きできないままその場で立ちすくんでいた。
どこから湧いてくるのかわからないような悲しみが滲み出す。
顔は自然と俯いていった。


「…ごめ…なさい…」


悠は弱々しい声で呟いた。
振り払われた手はまだ宙を泳いでいる。


「いきなり知らない人に話し掛けられて迷惑だった、よね…?」


そう言う悠の視線はまだ下を向いたままだ。
それを聞いた藍は少し驚いた顔をしてまた溜め息をついた。


「…知ってる。」

「…え?」


悠は顔を上げて藍を見た。
聞こえてはいたものの藍が自分を知っていたという事実が信じられない、
といった風に訊き返す。


「知ってるよ。佐伯悠。同じクラスだろ?」


―私のこと、知ってくれてたんだ…

それが悠には妙に嬉しかった。
悠は地味というわけではないが女子の中でもおとなしい方だ。
男子とあまり話すわけでもないので自分なんて覚えられていないだろうと思っていた。


「…うん。」


悠は自然と微笑を浮かべていた。
しかしそのことに本人は気付いていない。


「じゃあな。」


藍は無表情のまま悠の横を通り過ぎていった。


「うん!また明日!」


悠はサッと振り返り藍の背中に手を振る。
何の反応も示さず藍は図書室を後にした。

―羽野、藍くん…

図書室には悠一人きり。
やわらかい日の光が赤色をおびて世界を染める。
校庭からは野球部の掛け声。
廊下からは完成されたハーモニー。

そしてこの図書室からは悠の胸の鼓動だけが鳴り響いていた。



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