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[あらすじ] 時は戦国。前田慶次を殺しに来た刺客は「りん」という名の美しい少年だった。 慶次の家来、小吉はりんに惚れてしまった。りんはそれを知って小吉を誘惑し、慶次を 一緒に殺そうと持ちかけた。目的を果たせば小吉に尽くすと約束をして。 果たしてりんと小吉は、比類無い武勇を誇る慶次を討つことが出来るのだろうか。 拙著「前田慶次郎異聞」の前半のダイジェストです。 |
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契りの夜
りんと小吉は前田慶次郎という武将に仕えている。慶次郎は前田利家の甥だが、前田家を出奔し、京都伏見の本阿弥光悦の別邸を借りて住んでいた。 天正十九年の夏である。
もともと、りんは前田慶次郎を殺しに来た刺客の一人だった。どうして、そのりんが慶次郎に使えるようになったのか? それまでの物語を語ろう。
りんは赤ん坊の頃に、鈴鹿山地に隠れ住む一族に拾われてきた。一族にとっては一種の奴隷である『下忍』として育てられた、幼い頃から容姿に優れ可愛く、心も素直であった。 だが、その肉体が早少年期の中性的な特徴を持ち始めた時、残忍な上司に目をつけられ、『女』として犯され続けた。『下忍』の身で抗うことは出来なかった。虐待に我慢が出来なくなり、自ら死のうとしたとき、刺客として特別な修行を受けている留蔵という若者に救われた。そしてりんもその身体能力を見込まれ、刺客として育てられることになった。 過酷な修行に耐える日々からその上司から救ってくれた年上の若者、留蔵を慕う心が芽生えた。 りんは阿修羅のような慈悲無き殺人者という一面を持つと同時に、孤独な心を包んでくれる庇護者を常に求める『女』としての感情を本来持っていた。 刺客として諸国に散った彼らだが、ある時、留蔵は京都に滞在する前田慶次郎を殺すことを命じられた。 留蔵は返り討ちにあった。 それを鈴鹿の隠れ家で聞いたりんは逆上した。復讐の心が涙を抑えた。泣くのは慶次郎を殺した後だ。 だが、りんは慶次郎と一手見(まみ)えて、一人の力で慶次郎を討つことは適わないことを確信した。 慶次郎は幼い頃から戦陣を駆け巡った歴戦錬磨の武士。その臂力と闘争能力は、天才的な殺人者であるりんの能力を上回っていたのだ。りんは慶次郎の従者、慶次郎ほどではないが、槍を取らせたらひとかどの働きをする小吉に目をつけた。 はじめて慶次郎を襲った夜、小吉は自分に見入っていた。 俺に惚れたらしい。この時代に普通の風俗であった衆道(男色)者だろう。 りんは小吉を籠絡することにした。敢えて無防備で小吉に会い誘惑した。そして自分の味方につけることに成功した。 慶次郎を討った後は、小吉のものになると約束したのだ。 りんは慶次郎が討てたら後はどうでもよいと考えていた。
無断で鈴鹿を抜け出し、同僚の復讐を勝手にするということは、属する暗殺団の掟を破ることだった。事が成功しても、暗殺団の主家は自分を許すまい。どうせ殺されるのなら、小吉とそれまで暮らしても良い。小吉も一時の欲望を自分に抱いているだけだろう。数回抱けば飽きるに決まっている。主人を裏切った小吉も堕ちるところに堕ちるだろうが、自分には関わりのないことだ。
りんは小吉と二人で、ある夜、慶次郎を討つことにした。それも真正面からだ。後ろから卑怯な手で暗殺したところで、りんの怒りは収まらない。愛する留蔵にあの世であったら誇れるような殺し方をしたかった。りんは既に刺客ではなかった。 小吉は慶次郎の力を十分に知っている。だから、卑怯な襲撃を提案するだろうと思ったが、意外にも小吉も正々堂々と慶次郎と対峙したいと言った。しかも得意の槍は使わず剣だけで。槍を主に向けるのは出来ないと言う。 りんはこの男の本心を理解出来なかった。 自分への情欲のために主人を裏切るような男が、なぜ正面から向かうというのだ。 りんは、この男が自分を罠に掛けようとしているのかもしれないと考えた。小吉は慶次郎と対峙した途端、自分を裏切るかも知れない。それを確かめるために一計を案じた。小吉に先鋒をさせるのだ。 「小吉さん、最初の一太刀を慶次に見舞ってくれないか?俺は慶次がそれを防ぐときの隙をつく」 「・・・りん、前田様は隙を作るじゃろうか?」 「ほんの少しの構えの乱れ、足の踏み変え、腰の揺れ・・・それで十分じゃ。俺には斬るべきところが見える」 「ほ、本当か!」 「そうじゃ。構えに気を取られれば、転げて足を切る。足踏に気を取られれば胸を突き抜ける。ほんの一瞬で勝負はつく」 小吉はりんの言葉に背筋が凍った。一体、何人の腕達者の者達の命を、この幼さを残すおのこは奪ってきたのだ! 談合している時でもその眼は、空恐ろしいほど美しく澄み渡っていた。 だが奥底が見えぬ。
小吉が夜半に慶次郎の部屋に入った。慶次郎は夏で蒸し暑いのに茶を立てて飲んでいる。慶次郎の目には小吉が既に敵として映っていた。いつもと違う小吉の態度は、この男にとっては戦いを意味していたのだ。 小吉が刀を抜きながら喚いた。 「このお仕置きはあの世で受けまさあ!」 部屋の戸口の陰で聞いていたりんは、この言葉も理解できなかった。色に惑わされた男が、まだ主に敬意を払っているのか!何かの符丁か? りんは抜き身で慶次郎の部屋に入り、小吉に目で合図した。小吉が本当に主を裏切るか次の瞬間で分かる。もしそうでないなら、一撃で小吉を斬って今夜は退散する。
だが、小吉はまたもや意外な行動を取った。 刀を投げ捨て、鞘に収まった大刀を左手に持って佇立する慶次郎に、赤子のように抱きついたのだ!少なくとも慶次郎の両腕の動きは止められた! 「りん!今じゃ!儂ごと斬れ!」 りんはびっくりした!小吉は裏切った主とともに俺に斬られて死ぬつもりか!しかし千載一遇の好機!一瞬の隙も見逃さないりんの体は動いた。 だが、りんと慶次郎の間は三間(約六メートル)。りんが足を踏み出した時、慶次郎は右手を振り絞り、小吉の顔を殴った。小吉の腕が緩む!りんとの間は二間!慶次郎は小吉を突き飛ばし右手を柄に付け、大刀を抜きはじめた! りんは間合い一間に近づいたとき、それまで右手に垂らしていた剣を上段にして左手を添えた。しかし慶次郎の大刀は右上に既に引き抜かれ、弧を描いてりんの上に下ろされようとしていた。慶次郎の異常な腕力によってその剣は、一瞬早く自分に届くということを悟ったりんは、鋭く振り下ろそうとしていた上段の剣を顔の前に留めた。次の瞬間、慶次郎の剣が打ち下ろされ、刃と刃がぎゃりんと悲鳴を上げる。 慶次郎の大刀は身が厚く重い。りんの刀は人を斬る柳刃包丁の如く薄く軽い。慶次郎の刀の勢いでりんの刀の棟がりんの頭に押しつけられ、りんは飛び下がった。 小吉は確かに慶次郎を裏切ったようだが、何かおかしい。自分を裏切った小吉をなぜ慶次郎は近づかせ、抱きつかせたのか?その前に小吉を一刀両断に出来たはずだ。だが、慶次郎の小吉を見る目は穏やかであった。 ふん、そうか。 四十を超えた慶次郎と、三十そこそこの小吉との間にやはり何かあるのだろう。小吉は明らかに衆道だ!慶次も小吉を切り捨てられない未練があるのじゃろう。二人だけでこの広い屋敷に住んでいるのも、人に見咎められぬために違いない。 りんは慶次郎に放りだされ伸びている小吉を起こし、刃を小吉の喉に当てた。小吉は朦朧としていたが、呻くように言った。 「・・・りん、な、何をしている・・・敵わぬ!逃げろ・・・」 りんは慶次郎に怒鳴った。 「慶次!刀を捨てろ!小吉を殺すぞ!」 りんは、この主従が衆道の関係にあることに賭けていた。衆道とは、男と女の道よりも契りが固いと聞いたことがある。慶次郎が刀を捨てた。 勝った! 「そこに座れ!」 慶次郎が胡座をかいてどすんと腰を落とした。ごつごつした四十男と三十男が、愛を語る場面など想像も及ばぬが、こやつらはそんなもので命を落とすのよ! 油断無く立ち上がるりんに、脳震盪を起こし起きあがれぬ小吉の手がすがった。 「りん!・・・ご、後生じゃ!やめてくれ!」 りんは小吉を見ることもなく小吉の腕を切った。傷は浅かったが、小吉は腕をもう上げることは出来なかった。
小吉が意識が戻った時には勝負はついていた。 りんは自分が負けたことを信じることが出来なかった・・・。確かに慶次郎の太刀を奪い、戦う体勢が出来ぬように座らせた。そして渾身の力で禅座する慶次郎に袈裟切りを見舞った。それを防ごうとする慶次郎の腕を切り、脚を切り、土壇まで剣を振り下ろすはずだった。 しかし、りんの剣は、慶次郎の大きな手でその顔の前で止められていた。決死の白刃取りであった。 慶次郎はりんの刀が振り下ろされるとき、無心になった。無心になっても、それまで経験してきた修羅場が、瞬間に走馬燈のように思い出された。そして時間はその歩みを恐ろしいほどゆっくりと変化させた・・・自分に殺されていった者達の瞬間瞬間の顔が見えたが、その反面、注意力は落ちてくる刃の全気配を感じていた。無意識に繰り出す両手。し損じたらという恐怖はすでになく、刹那に身体が動いた! りんの刀は見事に慶次郎の手の平に収まり、その強大な腕力で捻り折られた。体の平衡を失ったが、慶次郎が折った刃を持ち直したことを悟り、とっさに後ろに撥ね飛んだ。 慶次郎の持った折れ刃が右胸をかする。 尻餅を突き、右手に残った折れた剣を投げようとすると、するりとそれが畳に落ちた! 「!・・・?」 右手に力が入らない! 右肩を見ると鎖骨から胸にかけて血の筋が走って行く!慌てて左手で右腕を抱く。それとその筋から血飛沫が上がるのが同時だった。 激痛が来る前に、それを不自然な姿勢で受けるのを出来るだけ避けるために、膝を揃えて身構えた。そして身が裂けるような痛みが!
・・・どのくらい気を失っていたのだろう。 夢うつつに今まで殺してきた人々が去来した。愛した留蔵が笑い、哀しげな顔で去っていく。 留あにい!行かないで!俺を一人にしないで!俺は地獄に堕ちる。でもあにいとなら耐えられる! ・・・地獄はそれも許してくれないのか・・・ 目の焦点があうと誰のでもない笑い顔があった。でも懐かしい・・・小吉の笑い顔はとぼけて頼りないような・・・普段おっかない顔をしてるのに・・・留あにいもそんなだった・・・ 激痛が戻った。死んでいた方が楽だ!これが小吉の俺への罰か! 「あうっ!」 「動くな!りん!動くと傷が開いて死ぬぞ!」 「・・・小吉さん・・・俺は小吉さんを裏切った・・・殺して下さい・・・こんなお仕置きなんて・・・酷い」 「りん!生きるんじゃ!それが留蔵の望みじゃ・・・」 何を言っているのか?・・・留あにいが俺が生きることを望んだ・・・? 「儂はどうなる!お前のために前田様を裏切って、儂はどうする!儂と暮らしてくれるんじゃなかったのか!」 そうか・・・そう・・・約束だよね。でも小吉さんも慶次に許して貰えるのかい・・・? 「あれは嘘か!」 いいや・・・嘘じゃなかった・・・俺が掟に殺されるまで一緒にいてやろうと思ってたんだ・・・うまく慶次を仕留められれば。りんの目から涙が流れた。 もう全てはご破算だろ・・・ 「小吉さん・・・ご免・・・」 りんはまた気を失った。
小吉の必死の看病でりんは一命を取り留めた。りんを小吉は優しく介抱した。 もう片手が動かぬ身体では復讐は意味がない。刺客のりんは死んだのだ。小吉自身も慶次郎の仕置きの沙汰を待っていた。許されるわけがない。 しかし慶次郎はそんなことを忘れたように何日も日が過ぎていた。いつもと変わりなく小吉は慶次郎の世話をする。そしてりんの看病に飛んで自分の部屋に行く。 慶次郎と小吉は衆道であったのではない。お互いに孤独の心を許しあい、共に生死を分け合う『絆』で結ばれていた。慶次郎は小吉のことを終生の友と考えていた。だから小吉に刃を向けられようと、怒ることはない。そこで死ぬのならそれでよい。そして小吉のりんへの想いを理解していた。小吉が最後に言ったあの世でも臣従を誓った言葉。だが、このままでは二人とも殺される。だから慶次郎は小吉を殴り飛ばした。
時が流れ、りんは右手は動かぬものの、体を起こすことが出来るようになった。だが、自分に手を触れようとしない小吉が不思議だった。 「小吉さん・・・小吉さんと前田様は契りあっているのか・・・?」 「な・・・なんじゃ?やぶからぼうに」 りんは小吉の目をじっと見ている。 「はは・・・儂と前田様がか?・・・そうじゃな・・・儂は前田様の押しかけ女房のようなものじゃ」 りんは小首を傾げた。そんなら俺はなんじゃ?浮気をしたのか? 「儂は親兄弟がなくてな。幼い頃、寺に奉公に出された。かわいげの無かった儂は奴隷のようにこき使われた・・・」 ふうん、それがどうしたんじゃ。俺だって同じだ。俺のような目に遭わなかったのなら幸せじゃ。 「儂は僧兵になるべく鍛錬を受けた。力を付けた後、気にくわなかった上役を半殺しにして寺から逃げた。・・・それからこの世の嫌われ者じゃった。」 小吉は自分の顎を撫でて続けた。 「何の望みもなく諸国を流れ歩き、喧嘩や女郎買いに明け暮れ、気が付いてみると金沢の前田様のお屋敷の前に行き倒れになっていた」 「前田様は儂を助けてくれたんじゃが・・・儂は前田様を殺して金品を盗もうとしたんじゃ」 りんは驚いた。 「・・・え・・・前田様を?」 小吉はにやりと笑って、 「じゃが、敵わなんだ。それどころか、反対に何でももって行けと言われたわ。赦して貰ったんじゃ」 「・・・盗んで逃げたの?」 「ああ・・・じゃが気になっての。その後、行われた前田利家様と佐々正成とのいくさを見に行ったんじゃ。戦場の高い木に登っての」 「慶次様は合戦には一回出られただけで城に戻されたが、儂は肝を潰した・・・たった一騎でいくさ場を突っ切り敵陣に突っ込んでいかれた・・・死に場所を求めるようにな。儂には分かった。この人も孤独なんじゃと・・・後から聞くと『退屈』だとおっしゃられたがの」 りんは小吉の目をじっと見続けていた。 「儂は決めた。どうせ儂はろくな死に方はせん。だったらあのお方の後に従って、二人で存分に暴れて死のうとな」
りんは心にわだかまっていた質問をした。 「・・・でもなぜ前田様はお前様をあのとき斬らなかったんじゃ?・・・前田様はお前様を好きなんじゃろ!」 りんが女のような感情でなじったのを感じて、今度は小吉が驚いた顔をした。 「・・・え・・・前田様が?儂を・・・?」 しばらくお互いを見つめていたが、小吉はがははと笑った。 「多分、儂がおらんと困るからじゃろ。儂は飯の支度や帳簿、前田様のお召し物までお世話をしているからな」 「儂は前田様の御心でいつでも死ぬ。じゃからその前に小者を雇って、それらを申し渡ししなくてはならん。明日でも口入れ屋に行こうと思う」 りんは憮然として言った。 「・・・お前様が死んだら俺はどうなる・・・俺もお仕置きを受けねばならんじゃろ」 「お前は生きろ。儂や留蔵の代わりに生きるんじゃ。前田様に儂の命と引き替えにお許しを願う。お前は刺客はもう辞めるのじゃ」 「そんな虫の良い話があるか!前田様が俺を許す分けもない!」 りんは小悪魔のように笑った。 「・・・じゃから最後に二人で良いことをしよう。それがお前の望みだったじゃろ?俺たちが死ぬまで短い間じゃが。お前様は俺のために前田様を裏切ってくれた。だからせめてもの償いをする。俺を存分に抱いて極楽に行け」 「そ・・・そんなことが出来るか!お前はまだ傷が癒えておらぬし」 「俺に惚れたのじゃないのか!俺を女のように抱きたいんじゃろ!」 りんは左手を付いて小吉の懐ににじり寄った。自分が女のように見られ、衆道以外の男達にも欲望を与えることを知っている。 だが、不幸中の幸なのか『男』は一人しか知らない。嘗ての上司の鬼吉だけだった。留蔵に救われる前に鬼吉に所有され、体を縛られながら散々に犯され続けた。 心を明け渡すまいと必死に耐えた。だが、縄が体に食い込み、乳首を執拗にいじられ吸われ、蕾を裂かれて血糊でぬめる体内を長時間突かれ続けると、被虐的な快感を味合うようになった。親兄弟の愛や温もりを知らぬ肉体が、鬼吉の唾と精の味を知り、肌の重なりを感じ、体内に差し込まれた肉桂の摩擦を覚えるたびに肉体が、心の憎しみとはよそに、人のものとなる快楽に震えはじめた・・・ 少なくとも、その時間だけは孤独ではなかった。
小吉は鬼吉とは比べものにならない。獣のように自分を扱うことはない。自分の欲望をただ果たそうともしない。優しい。 小吉が自分に抱いている想いが慶次郎と戦う前まででも真実なら、もうそれで良かった。りんの心の女性的な部分が発動し、鬼吉の体の熱さが小吉だったらどれほど幸福だっただろうという想いが、りんの体内を熱しだした。 俺は小吉のために女になるのだ。 という感覚が頭を巡りだし、麻の寝間着に飛び出てきた乳首が擦れて肉体の奥底を刺激する。鬼吉に執拗に吸われ、翌朝まで腫れて痛んだことが体の記憶に戻ってきた。 鼓動が激しくなり、唾が口の中に溢れ、思わず舌で唇を濡らす。小吉は、りんのあまりにも妖艶な仕草と顔に、ふぐりがびくんと引き上がるのを感じた。 女のような、艶めかしい異性の生きものがその前にいた。 りんは息を浅く突きながらも、自分の肉体の初めての変化を感じ取り、自分は男でありながらこんなにも対極の性をも所有していたのかと驚いた。 この男に抱かれたいという欲望が、ごぼごぼという音を立てて湧き上がるようだ!
「小吉!俺を抱け!なんでもしてやる!どんな恥ずかしいことでも!女のように化粧してもいい!」
だが、小吉はついにりんを抱かなかった。小吉は、こんなにもか弱い小鳥を傷つけることは出来なかったのだ。そして儂はこの小鳥に惚れた。変わるまい。 「りん、・・・誓う。終生お前だけじゃ」 りんはこれほど火照る肉体を鎮めてくれぬ小吉に腹を立てていた。ならばどこまでもつきまとってやる! 「・・・ほんとだね?・・・目移りしたら・・・殺すよ」 「ああ・・・殺せ」 「ほんとだね・・・」 (そして俺も死ぬ)
小吉はしばらくすると、横向きにりんを抱いたまま寝息を立て始めた。りんの股の間に脚を入れたまま。りんは意を決して小吉の太い片足に下腹を擦り付け、ゆっくり腰をしゃくりはじめた。りんの目は潤み、無防備に寝ている小吉の顔を見ていた。 (小吉の馬鹿。人の気も知らないで・・・) りんの右足は下になっているので大きな動きは出来ないが、両足を締め、小吉の腿に自分のものを押しつける。小吉に抱かれ強く陰部を締め付けられることを考える。 (あ・・・あっ!) りんの肉体は硬直し肩の傷が痛んだ。小吉の懐にしがみつく。熱い精がどくどくと脚の締め付けを緩めるたびにほとばしり出た。小吉の手の中で行く自分。 最後の放出が終わると浅く息を突いて、心臓の静まりを待った。そしてりんは可愛い舌で小吉の唇を舐めた。小吉はくすぐったいという顔をして上を向いてしまった。鼾を立てている。放心したようにりんはぐったりと小吉の方を向いて横たわっていた。 りんは自分の下帯の中にそっと手を差し込んで、まだ熱い粘液を掬った。 (俺には要らないものじゃ・・・) りんはその指に絡んだ一筋を口に含んだ。 (小吉さん、俺に生涯を誓ってくれたけど、殺してきた人の血で穢れた俺は、歴とした武士のおまいには相応しくない・・・だからせめてお前のもの・・・いつか俺の中に注ぎ込んで貰いたい・・・こんな俺だから心の契りしか出来ないけど)
こうしてりんは小吉と生活をするようになった。慶次は二人が自分を殺そうとしたことなぞ意に介していない様だ。りんを信じりんの作った飯を食った。 孤独な三つの魂がこの世の一時の安らぎの場を見つけたのだ。 時は戦国。最後の武士として慶次郎は生きる。それに従う小吉とりん。彼ら主従の前に束の間ではあろうが、死神も道を空けざるを得ない。
了
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著作者:泊瀬光延 ホームへ
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