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[あらすじ] 中世ヨーロッパで行われた“魔女狩り”。ありとあらゆる拷問で罪を捏造された時代に、 たった一人だけ罪を告白した女がいた。その女、イゾベルが見た幻影の内容とは…。 |
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愛想がないとよく言われます。あなた以外の人間に、よく思ってもらおうなんて思いません。なぜ無頓着なこの世界に微笑まなければならないのでしょうか。私の中の憎悪と殺意さえも見ぬけない愚鈍な世界を、ヒトラーさえをも止めることが出来なかったこの世界を、今日もどこかで殺人者がぬくぬくと育っているこの世界をなぜ愛さなければならないのでしょう。私が愛するのはマチヒトあなただけ。 私は回りの全ての人を憎んでいます。両親、姉妹、その他の名も無き人々。いっそこの世界に原子爆弾でも落ちてしまわないかしら…と、いつだって考えています。あっという間に消滅する美しさ、見苦しい断末魔を他人に曝さず消滅してしまう事は、私の密かな憧れでもあります。病んだ自分を見られることに抵抗があります。私がもしも入院したとして、見舞ってくれる友人は居ないのですが、出来れば意識の無いままに、青酸カリでも飲ませていただけたら幸いです。ゆっくりと蝕まれていくなんて真っ平です。
出来れば10代になる前に死んでしまいたい。自分の年齢が二桁になるのなんて耐えがたい屈辱です。今日も地球のどこかでは、瞳を輝かせ、将来を夢見ながら爆死する子供達が大勢いるのです。平和な国でろくでも無い事を考えているにもかかわらず、全てを与えられている無能な私達は、彼らに命を差し出さなければならないのです。平和は何も生み出しません。闘争こそが人間の本能なのです。長年平和に飼いならされてきたこの国が、どういう状態で破滅に向かっているのか、誰にだって心当たりは有るはずです。こんな世界に、真実の愛なんて生まれません。特に、五体満足で育ってしまった哀れな愚か者達は、愛という名を語り、陳腐な傷の舐め合いを繰り返しているだけです。ならば誰が真実の愛を知っているのでしょうか、「明日死ぬかもしれない」不安こそが、私達を唯一シリアスな気分にさせる薬なのです。そうじゃないかぎり、私達は真剣になることに本気になれないまま、悪事さえをも笑いの種にしてしまうのです。
ナイチンゲールだって、マザー・テレサだって、戦争あってこその深い愛情なのだと思いませんか。愛情を育てるには、ハンデが必要なのです。ろくなハンデさえ知らない私達は、真実の愛を見つけられず、容易に自分を葬れないまま、甘えた時を過ごすだけの無能な人間に成り下がるしかないのです。私の周りに、学校に行かなくなった人達が多数います。彼らの甘えこそ、罰されてしかるべきなのに、同じ被害に遭ったのに、学校に通い続けている私が、気まずい思いをしなければならないのはなぜでしょうか。電車でお年寄りに席を譲っても、翌日には同級生にランドセルを焼却炉にぶち込まれるのがオチです。私の中に住んでいたわずかな優しさは、どこにいってしまったんでしょう。助けてよ、マチヒト。早く私の前に現れて、私を誰も居ないところに連れていってよ。あなたは、私に許された、唯一の甘えであり夢なんだから。 どこかで妹が泣いています。お母さんが手を上げている。お父さんは黙って下を向いている。これがお母さんの哀しみを発散する唯一の方法。私達他人は目を背ける事しか出来ないのです。妹はお父さんと愛人の間に生まれたヨソの子。お母さんにはそれだけでも耐えがたい現実なのに、お父さんは仲間と一緒に独立した子会社を作って失敗し、多額の借金を抱えている。私には借金の額は知らされていないけど、お母さんの様子を見ていたらただ事ではないのがわかります。
妹は3歳。だけど自分がなぜ殴られているのか判っているのでしょう、声を殺して泣いています。私はお母さんに意見することも出来ず、ただ日夜繰り返される愚痴を聞いています。お母さんは決して泣きません。ただお酒を浴びて、命がけで現実逃避しようとしているだけです。
こんな負の空気の中で、生活していくのは耐えがたく、いつも飛び出るように登校します。そしてクラスの扉を開ける瞬間、ここに来てしまったことを後悔します。でも、私は気丈を装って扉を開けます。一斉に向けられる好奇の目。私の机の上には、チョークで「死ね」と書かれています。本当に死んでしまえれば、どんなに楽なんでしょう。私も、お母さんも、その他の人間も、なぜすぐに死んでしまえないんでしょう。戦争や飢餓で死んでいく子供達と、どうして入れ替わる事が出来ないんでしょう。「死ね」と言う文字を、服の袖で擦りながら、嘲笑と視線に耐えます。死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ…。
誰にかけるでもない呪いの言葉が喉の奥で重複します。もはや私達に生きる理由はございません。もろとも爆破されたい気分に駆られました…。 「以上が私の罪の告白です」 イゾベルは机上に視線を落としながら、今度は口をつぐんだ神官を見据えながらもう一度、はっきりとこう言った。 「以上、私自身がサバトで見た幻影の数々です…」
そしてイゾベルは、彼女の望み通り、魔女狩りの業火に焼かれていくのである。
…fin
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